建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年5月号〉

interview

アワビと海洋深層水の熊石らしさで、基幹産業を振興

町民が熊石に住んで良かったと実感できるマチづくりを

北海道熊石町長 藤村 正二 氏

藤村 正二 ふじむら・しょうじ

生年月日 昭和13年1月2日
出身地 熊石町
最終学歴 函館工業高等学校(建築科)卒業

昭和 34年 4月 北海道庁建設部住宅課
昭和 49年 4月 檜山支庁
昭和 52年 8月 渡島支庁
昭和 55年 4月 北海道庁住宅都市部
昭和 60年 4月 宗谷支庁
昭和 62年 4月 後志支庁
平成 元年 4月 北海道庁住宅都市部
平成 3年 6月 北海道監査委員事務局
平成 6年 7月 熊石町長 現在2期目
[主な公職]
・桧山町村会 副会長
・北海道治水・砂防・海岸事業促進同盟 監事

  
北海道渡島半島の西海岸中央部に位置する熊石町は、恵み豊かな日本海に抱かれて、古くから漁業のマチとして栄えてきた。その条件を生かし、アワビの養殖による「あわびの里」づくりや、海洋深層水の取水による付加価値製品の開発など、新たな水産業の可能性を模索し、町民が熊石に住んで良かったと実感できるマチづくりを進めている熊石町長・藤村正二氏に、政策などを伺った。
──町長として、まもなく2期8年間を終えようとしていますが、どんな政策に力を入れてきましたか
藤村
今まで、アワビを用いた基幹産業の振興や、福祉施策、下水道の供用開始など、町民にとって住みよいマチづくりを進めてきました。まだ、町民にとっては不足部分があるかもしれませんが、町財政の厳しい中では、私なりにほぼ満足がいく状態で、熊石の人達がここに住んで良かった思えるマチづくりができたと思います。
──あわびの里は、今や知名度が上がり、全道的に有名ですね
藤村
水産業は厳しい情勢とはいえ、基幹産業がその水産業なので、町長に就任後、あわび養殖に力を入れ、「あわびの里フェスティバル」というイベントも行いました。これは、就任した次の年から始め、毎年5月の第3日曜日に行い、去年で計7回実施しました。これがかなり好評で、昨年は約2万5,000人もの観光客が訪れ、ようやくこのイベントも定着してきたと思います。
このフェスティバルが産業に結びつき、漁師の若い人達が「あわび養殖部会」をつくり、あわびの養殖に一生懸命取り組んでいるところです。季節によっては、アワビは不足している情勢から、現在、全道的にもあわびと言えば、熊石と言われるようになり、一つのイベントが産業に結びついた好例ではないかと思います。
──他の漁業については、どんな状況でしょうか
藤村
漁業は、冬のスケソウ漁が大きく割合を占め、その他マス、イカ、鮭もありますが、どれもその年によって左右される遊魚類です。しかし、去年はイカが多く獲れたのですが、価格が安くて採算が合いませんでした。したがって、いつまでも流れものに頼るのは不安定ですから、今後の水産業振興策の中心は、あわび養殖と海洋深層水の開発ですね。
──海洋深層水のアイデアは、何がきっかけですか
藤村
これは平成3年に、日本海の奥尻海峡を活性化する一つの案として「桧山マリンサイエンスパーク構想」は、熊石に温泉熱があるので、海洋深層水を汲み上げて、温度差発電をする考えで進めていました。その2次利用として、色々な養殖などの水産振興や観光に使う予定でした。当時、熊石は財政的にも厳しかったので、道や国へ熊石に深層水の研究機関を設置してもらうよう要請しましたが、無理でした。
そこで、熊石自身で研究を進める方法はないか、検討することから始め、研究機関の人や大学の教授など、色々な人に参画してもらって検討した結果、平成12年9月に決断をして、昨年の12月から本格的に工事にとりかかることになりました。
──事業の進捗状況は
藤村
平成13年12月から工事に着工し、15年の秋に本格的に取水するスケジュールで進めています。熊石の沖合約4km、深さ330mから1日3,500tの深層水を汲み上げる施設を建設中です。2,500tは、水産振興に使い、残りの1,000tはその他の多目的用途に使う考えです。
──どのような活用法が考えられますか
藤村
大きくは、あわび養殖に使うつもりです。深層水そのものに非常に栄養があると言われ、また雑菌が少なく、清浄性があるとも考えられています。現在、表層水で魚を洗浄していますが、綺麗な深層水を使うとなれば、衛生管理のレベルが向上します。また、深層水を使って育てることにより、あわびの成長も早いのではないかと考えています。
この他にも鮮度が長持ちすることや、味もまろやかになると言われていますが、深層水については、解明されていない部分がまだまだ多く、我々も実際に食べてみて、味が良くなっていることなどは解るのですが、なぜ味が良くなるのかは謎です。
これからも深層水の研究を進めると同時に、漁業だけでなく農業等にも深層水を活用して、色々な使用法や製品化などを模索していきたいですね。まだまだ色々な未知数な点がありますが、将来性もあるので楽しみな事業です。
──観光産業の振興には、どう取り組んでいますか
藤村
この町では「熊石休養村」があります。キャンプ場としては、立派なキャンプ場で利用者も多いのですが、どうしても、春の連休時や子供の夏休み以外は、利用者が少なくなり、休業状態になってしまいます。そこで現在、休養村の老朽化した施設を、利用しやすいように施設を作り替えております。また、あわびや、先の海洋深層水などを目玉にしながら、観光客の入れ込み数を増やしていきたいですね。
──災害対策も進んでいますね
藤村
今まで、秋に大雨が降ると川が溢れていましたが、河川整備により無くなりました。また、急傾斜地も整備し、災害に強いマチづくりを進めてきました。これにより、多少の雨が降っても安心ではないかと思います。
それから長年の懸案だった八雲町に通じる国道277号の八熊線も、大雨が降ると通行止めの状況でしたが、私が町長に就任した翌年に桧山10町と渡島の八雲、松前、福島の計13町で、「国道277号(熊石・八雲間)早期完成促進期成会」をつくり、私が会長に就任して、色々と要請活動をした結果、現在、峠部分に工事が着工している状況です。これからは、一年でも早く完成してもらう努力をしていきたいですね。
──子供達の教育や人材育成については
藤村
少子化が進み、過疎化に歯止めがかからない状況で、若い人達も就職先が無いために、高等学校を卒業すると、熊石を離れてしまいます。しかし、将来を担う子供ですから、保育園などでは、保育料も国が決めた金額よりは安くして、子供たちが団体で生活できるようにしています。
また小学校は、全ての学級でパソコンを導入し、時代に対応できるようにしています。そして高校は、もっと国際的な目を養ってもらうために町で一部助成し、修学旅行は韓国に行っております。
  熊石の子供たちについては、教員や警察などに聞いても、犯罪などに関与する心配は全くないと、毎年お墨付きをいただいています。むしろ、老人ホーム慰問や交通安全などに一生懸命に力を入れてくれて、大変、嬉しいかぎりです。
──高齢者対策については
藤村
現在、デイサービスセンターも建設していますが、既存の施設は利用者数が多く、また、ひらたない荘の「アワビの湯」もかなり老朽化していましたが、これも更新しました。その温泉の無料入浴券を、高齢者の人には今までは8枚支給してきましたが、14年度からは12枚に増やします。また送迎バスも運行して、温泉利用を高めようと思います。
介護保険制度もスタートしていますが、熊石の高齢者は非常に我慢強い人が多く、体調が多少悪くても、金がかかるというので我慢する人もいます。私は、我慢しないで介護保険の認定を受けて、ヘルプ事業やデイサービスなどを利用していただきたいと考えています。そこで本来、介護保険は本人が10%負担ですが、それを3%に下げて利用しやすいような福祉施策を行っています。
その他に1年に1回、「ふれあい演芸会」といった、食事を共にしながら、高齢者自身で色々な踊りや歌を披露する会を行い、健在ぶりを披露するイベントも行っています。これらは、都会ではあまりできないことですね。田舎ならではの福祉施策だと思います。
──最近、論議されている町村合併については、どう考えますか
藤村
これは、充分に検討していかなければなりません。現在、熊石の中でも合併について色々と研究しており、また、熊石から上ノ国、奥尻まで含めた6町で、合併についての勉強会も開いています。その勉強会で提示された考えと、国や道の考えを、町の広報を通じて周知しています。今後も、合併について情報を公開して、町民の意見を聞き入れながら、判断していかなければいけません。
──合併のパターンは
藤村
パターンは2つあり、乙部と一緒になるパターンと、上ノ国から熊石までの5町で一緒になるパターンです。乙部と熊石は対等合併になると予測されますが、5町が合併した時は、熊石は吸収合併になります。
──5町合併の時は、どうしても江差が中心になってしまいますね
藤村
過去の例で見ると、吸収されたマチは過疎化が進みますから、難しい問題です。合併したら過疎化が進む、合併しなくても財政的に大変苦しい。どちらにしても非常に厳しい選択になりますが、町民と一緒になり、将来に悔いを残さない方法を選択したいと思います。
──今後の政策展望は
藤村
現在の財政事情、交付税の問題など厳しい面がありますが、熊石は熊石なりのマチの発展を考えていきたいですね。やはり、熊石というのはあわびと海洋深層水です。働き場所の確保につながり、付加価値を付ければ将来性も考えられるこの2つを大いに活用してマチづくりにつなげていきたいと思います。
いずれにしても町民が熊石で生まれ、育って良かったなと実感できるマチを目指し、また、その理想に少しでも近づけるように一生懸命、取り組んでいきたいですね。

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