建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年4月号〉

interview

市民の意見を集約し、市民参加のマチづくりへ

農業は原点に返り、富良野の景観に合う土づくりを

北海道富良野市長 高田 忠尚 氏

高田 忠尚 たかだ・ただなお
昭和 18年 8月 15日生(満58歳)
昭和 38年 3月 北海道上川支庁農業学園終了
昭和 38年 4月 農業従事
昭和 46年 6月 北海道青年会館理事(現)
昭和 52年 3月 富良野農業協同組合理事
平成 2年 3月 富良野農業協同組合第一理事
平成 6年 5月 富良野市長
富良野市は、北海道の中央に位置していることから、「へそのマチ」と愛称され、基幹産業である農業と観光の調和したマチだ。富良野の豊かな自然環境を活かしつつ、「市民参加のマチづくり」を進める高田忠尚市長に、これからの富良野市のあり方を伺った。
──これまでどのようなマチづくりを進めてきましたか
高田
就任してから今日まで、富良野市民と約束したことに全力を挙げて取り組んできました。その過程で、私が最も心掛けてきたのは、市民参加によるマチづくりです。例えば、人材育成では、市内にある人材開発センターは、市内企業の協力によって、十分に機能を発揮しています。観光でも、今までは行政が観光振興策を担ってきたのですが、観光協会を法人化する事により、施策内容に広がりが出てきました。文化では、富良野演劇工場の運営・管理を、民間のNPOが担当しています。障害者の小規模施設もNPOが運営しています。
このように、市民が参加できる状況を行政側で整え、後は市民に一任する形をとっています。このようにして、様々な分野で市民参加のマチづくりが実現できた意味では、自分なりに合格点がつけられると思います。
──行政改革も市民参加で進めていますね
高田
行政改革は平成8年から12年までを一つの区切りとして、計画的に取り組んできました。行政内部の事業・事務の見直し、あるいは補助金の見直しなどを推進しました。しかし、このときは、市民の色々な意見を集約してではなく、行政単独で問題点を見直しながら進めたものです。
しかし現在、進めている行政改革では、行政側だけで進めたことによる反省も踏まえて、平成12年に企業の代表者や商工会議所の代表者に市民委員会を設置していただき、市民の視点に基づく行政改革への意見を集約していただきました。その意見と、行政側の意見を整理して、平成13年から平成17年までの5ヶ年を一区切りとする行政改革を現在、実施をしています。厳しい時代ですから、計画では当然、定数削減問題や、手当、人件費の抑制などを予定しています。私としては、富良野市の行政改革を、住民に見える形で実践したいと思っています。
──基幹産業である農業も、情勢は厳しいのでは
高田
従来の農業は、市町村自治体の振興策などにより、問題点はかなり改善されたのですが、現在は、外的な要因などによって農畜産物の価格が急落・下落して、地元の農業生産者の手取りが低下しています。この外的要因とは、例えば輸入自由化による農産物の価格低迷。国内問題では、bse問題や企業モラルの低下など、これらにより、特に畜産が大きなダメージを受け、肉の消費が減退しました。それに伴い、富良野でウエイトの高い玉ねぎの消費も落ち込み、国際競争力の比較的強い玉ねぎの価格も低迷しています。これらが富良野の農業を苦しめています。
そこで現在、市ではもう一度、原点に返り、特に平成14年度を土づくり元年と捉え、農業の基盤である「土づくり」に取り組んでいく考えです。富良野は農業と観光のマチですから、土づくりによって、富良野の素晴らしい景観にマッチする農業をつくっていきたいですね。そして、これを拡充するために、富良野の大地から穫れる素材に十分な付加価値をつけて、市場を拡大していく考えです。
これまでにも加工食品として、ワインやチーズ、ジュース、ドレッシングなどを、富良野ブランドとして販売していますが、今後は、さらに食品数を増やし、さらに日本食に合う食品加工を開発して付加価値をつけていきたいと思います。
──富良野の観光と言えば、へそ祭りが有名ですね
高田
へそ祭りやスキー祭りなどのイベントを構築し、観光振興していくことは、これからも大切なことだと思います。しかし、それ以上に大事にしなければならないのは、富良野の豊かな大地を、観光客が来て良かったと思えるような癒しの場であり続けるよう、保全しなければなりません。自然を残しつつ、もっと農業や森林に触れ合ってもらえる観光の振興を進めていく考えです。
これが、農業と地域のツーリズムに繋がっていくのではないかと思います。富良野の持っている自然の豊かさを、観光客にも十分に楽しんでもらえるような観光振興策を、これから拡大していきたいと考えています。
──自然を楽しむ施設として、計画しているものは
高田
現在、山部地区で生涯学習センターを建設中で、先般、他界された東京大学演習林元林長の高橋延清(どろ亀)先生にまつわる様々な資料を展示する予定です。この施設を、東大演習林に入るためのベースキャンプ地にして、森の生態や、森に入るためのルールなどをしっかりと学んでもらい、また、最近は子供達が木に直接触れあう機会が少ないので、材木をゲンノウやノミで工作する場所にもしたいと考えています。
──この施設は、自然を満喫できる場所になりますね
高田
そうです。この他にも、富良野農業の担い手育成の場を併設する予定です。富良野の農業や森林に触れてもらい、観光としても来てもらえるものにしたいですね。
──自然を汚さないためには、都市環境整備も重要ですね
高田
都市環境整備は、市民の皆様にもご協力をいただき、昨年の10月からゴミの14種分別を始めました。すでに、富良野ではリサイクルのマチとして取り組んできていますが、ゴミを燃やしたり埋め立てるのではなく、99%のリサイクル化を目指して環境整備を進め、住み良いマチづくりを進めていきたいと考えています。
──観光客を呼び込む上では、中心市街地の活性化も必要では
高田
富良野の中心市街地は、富良野沿線が人口8万人で、経済が右肩上がりだった時に形成されました。しかし現在は、経済が下向きになり、人口もこの沿線で5万人に減少しました。もう一度、市内のマチの顔を作り替えなければなりません。
今までは、馬車や乗り合いバスのためだけに駅が形成されてきましたが、現在、富良野は、観光客数が年間200万人を超える観光都市として成長していますから、観光市街地として形成しなければなりません。しかし、駅前には観光バスが入るスペースがなく、また駅前を中心に観光客が散策できる形にもなっていません。
そこで、平成10年から中心市街地の活性化の基本計画を策定させていただいて、色々な議論をしながら、現在、道の正式な都市計画決定を待っている状況です。正式に決定すれば、私達が考えている「へそのマチ」のへそづくりを進め、市民の交流施設や駅舎を整備して、市民や観光客がマチの中を散策できる場所、さらにまた駅前は、観光バスのターミナルも設置して、観光インフォメーションにも対応できるなど、マチの中心市街地の再開発に取り組みたいですね。
──国が進めている地域高規格道路も観光の起爆剤になりそうですね
高田
北海道の高速道路網の中で現在、計画が進んでいますが、これを確実に実現させて、21世紀の北海道全体における自動車高速ネット網の中で、富良野も道東と道北を結ぶルートとして整備してもらいたいと思います。また、ただの開発ではなく、国も地域高規格道路を景観に充分に配慮した、景観道路整備を進めていく考えであるようですから、私ども富良野の景観に一番マッチした地域高規格道路の整備を進めていただきたいですね。
──現在騒がれている、市町村合併については
高田
確かに現在の財政問題、地方分権の推進の中で、市町村合併は、我々も具体的に取り組んでいかなければなりません。しかし、北海道の広大な土地の中で、全国的に進められる合併論理が通用するのか疑問です。例えば、府県のように100平方キロメートルの中での3〜4町村の合併と、広域な北海道の市町村の合併は、同じとは言えません。道が示した富良野沿線が合併しますと、東京都と同じ面積を持つことになります。その面積で、本当に住民サービスが低下しないのか疑問が残ります。合併問題については、絶対反対という意見ではないですが、効率化ということだけで国は押し進めている気がします。効率化だけでしたら、合併だけが選択ではないと思います。その中で現在、富良野沿線で推進しているのは、広域連合を具体的に取り組むことで、本体の市町村をスリム化することです。例を挙げますと、富良野沿線では、消防や学校給食、終末処理の環境衛生などを協力しています。このようなバラバラで取り組んでいたものを一本化しながら、さらには、国保や介護保険なども検討し連携を考え、広域連合として新たな自治体をもう一つ設置する研究を富良野沿線では取り組んでいます。これが実現できれば、私は何も合併だけが選択肢ではなく、新たな市町村の形成の余地があると考えています。
──最後に、今後の抱負は
高田
今後、私の施策として、しっかりと取り組みたいのは、私の政治理念である「市民参加のマチづくり」ですね。まず、これをより追求していきたいですね。この中で人材育成として、次の世代を担う子供達を、たくましく育てたい。また、富良野のマチづくりに貢献した高齢者に、安心して生活ができる福祉施策を推進したいと考えています。もう一つは、この土台になる地元の基幹産業を安全・安心を、全面に出しながら、基幹産業を活力あるものに作り上げていきたいと思います。これは、私自身の今までの取り組みでもありますが、今まで以上に取り組みたいと思います。

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