建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年4月号〉

interview

超軟弱地盤を攻略し、環境と住民にやさしく建設している営団地下鉄半蔵門線の完成が目前

ISO14001も取得した地下鉄建設精鋭集団を陣頭指揮


帝都高速度交通営団 建設本部工事部長 藤木育雄
──新たな半蔵門線となる11号線建設の経緯と意義についてお聞かせください
藤木
11号線は、1968年4月に銀座線の交雑緩和を目的にバイパスとして設定された路線です。これをさらに北東部に延伸するため、住吉、押上、四ツ木を経由して、千葉県松戸市まで整備することが決まっています。その後、93年度の政府の緊急経済対策で、新社会資本整備の一環として11号線の建設が盛り込まれ、93年11月に工事着手しました。
──今回の11号線工事では、地盤が大変に軟弱であったとお聞きしていますが、建設工事に当たってはかなり苦労されたのではないですか
藤木
そうです。正に「軟弱地盤と地下水」との闘いですね。地下水をくみ上げると周りが沈下する地盤ですから、開削工法で施工する駅部については非常に苦労しています。とにかく掘ったら水が出て、グチャと潰れるような山ですから。しかし、隅田川の都心方は、若干地盤はよくなります。
そこで、軟弱地盤に合わせた工法を検討し、駅部の土留め工法については剛性の高い地下連続壁を全ての駅に採用しています。また、掘削にあたっては生石灰杭で地盤を固めました。さらに地下水対策として、揚水した地下水を再度地盤に戻すリチャージウェル工法を採用しました。
──工事上の工夫について教えてください
藤木
工事区域は、古い下町であり道路下には多くの埋設物などがあり、掘ってみなければ判らないものがありました。この路線の駅間は、かなりの区間にわたって民地の下を通りましたから、トンネル掘削によって建物に影響が無いようにしなければならず、また、開業後とも振動・騒音が発生しないような工事方法、軌道の構造を考慮する必要がありました。
駅部は、地下鉄構築と沿道の建物と数十センチ程度しか離れていないため、仮設の土留め杭をやめて、剛性の高い地下連続壁を仮設及び本体に利用することで掘削幅を縮小しました。また、掘削に際しては、支保工は大型の鋼材の使用と「逆巻き工法」の採用で、より剛性の高い支保部材として、周辺地盤への影響が極力少ない工法を全ての駅に採用しました。なお、地下鉄の構造物は、通常掘削完了後、軌道階から順次上の階を築造します。「逆巻き工法」の場合は、掘削しながら、上床版、中床版、軌道下床版と逆に構造物を築造する方法です。
駅間トンネルは、横穴式のシールド工法を採用しており、清澄駅では、3連型シールド工法を採用しました。シールドの形式は、各区間の地盤、作業基地の大きさ、掘削土砂の処理など総合的に判断して、切羽の全面をドロ水で押える「泥水式」と、切羽の全面を掘削した土砂で押える「土圧式」を使い別けしました。
 お話ししたように、軟弱地盤や周辺環境を考慮して最適な工法を採用した結果、事故もなく安全と堀り進み、構築がほぼ完成し、現在軌道等の施設工事に入っている段階です。
──環境対策には、他にどのような工夫が行われましたか
藤木
環境対策として、掘削土を現場で処理し、再利用するための研究を、南北線建設時の平成4年から開始しました。現在はシールドトンネルから出た土砂を、駅の埋め戻しに使っています。泥水については、セメントを少し混ぜて固めています。
この方法は、道路管理者の東京都でも評価され、標準化されました。今回のシールド工事では、連続的に埋め戻しができるようシステム化しました。これによって発生土の約3割を有効利用しています。
埋め戻しの他、複線トンネルは形状が丸くて、下部は使えないスペースがあるので、そこにセメントを混ぜた発生土を軌道床盤材として使っており、これは画期的なことです。掘削土を再利用すれば、わざわざ山間部から運び出す必要がないので、ダンプも不要になりますから環境への負荷低減効果が大きくなります。営団では標準的にこの工法を使うことになりました。
今では各都市でも導入されるようになりましたね。そして、埋め戻し材料を販売する民間企業も登場し、新たなビジネスに発展しました。
これら環境対策の発端は、1999年に鉄道建設事業者としては初めて「ISO14001」を取得したことから始まりました。
 この他、今回苦労したポイントは、道路幅が狭く、22mしかなかったことです。そのため、トンネル工事を24時間行うので、道路の真ん中に15m以上の防音ハウスを設置しました。これは、この工事区域にはたくさんの住宅地が張り付いているので、工事用地もなかなか確保できず、道路の真ん中を使わなければならなかったからです。
──地域住民の、工事に対する反応はどうですか
藤木
密集した下町の住宅地で何年も工事をするので、沿道のみなさんとのコミュニケーションは欠かせません。今では、みなさんが「地下でどんな作業が行われているのか」と興味を持ってくれています。
実際、一駅の区間の長さは200数十メートルで、深さは20m以上、幅が15mもありますから、地上の構造物でいうなら、7階建てほどのマンションが200メートルも続く形になりますから、途方もなく巨大な物を地下で作っている訳です。
それを説明すると、さすがにみなさんもびっくりされます(笑)。今までは、そうした巨大構造物の地下施工という苦労は、なかなか理解されませんでしたが、最近はできるだけprをして理解を得るよう努力しています。
面白いのは、出来上がった地下のトンネルの中をみなさんに実際に歩いてもらい、そして地上に出たとき、入る時の周りの風景とはまったく違うため、異空間に来たようだと喜ばれることです(笑)。
──開業に向けて、今後の抱負は
藤木
来年の春に開業ということで、土木工事はまだ若干残っていますが、今度は突貫工事で進めなければなりません。軌道、電気、建築工事を一緒に進めているので、工程の調整が重要となります。また、出入口なども複合的に行っているので、事故無く後1年をいかに効率的に進めるかが課題です。
一方、コスト削減にも努めなければならず、営団はこの点でも、数ある公社、公団の中でも毎年二桁台の削減率を達成しており、優秀と自負しております。
現在は“北千住”が非常に混雑しており、整備中の常磐新線も開通すれば、さらに北千住の混雑も予想されますから、この「11号線」は、バイパスとしても効果を発揮するものと確信しています。

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