建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年3月号〉

interview

町民と同じ目線に立ち、何が必要かを考え行動することが大事

クリーンエネルギーなど新事業でマチの活性化を図る

北海道江差町長 若山 昭夫 氏

若山 昭夫 わかやま・あきお
昭和17年4月11日生まれ
昭和36年3月北海道立江差高等学校卒業
昭和36年4月江差町役場勤務
昭和 37年 3月〜昭和38年3月 北海道立自治講習所修了
昭和60年4月税務課長
昭和62年6月財政課長
平成6年5月退 職
平成6年8月町長当選・就任職
平成10年8月町長当選(2期目)
【主な公職】
檜山広域行政組合 理事長
檜山総合開発期成会 会長
渡島半島地域振興対策協議会 副会長
江差追分会 会長
北海道檜山支庁管内の南部に位置する江差町。その歴史は古く、地域の特産物であった檜材と鰊を主な交易品として繁栄を極め、マチには多くの歴史的建造物などが保存・伝承されている。さらなる江差町の発展のため、試験畑やクリーンエネルギーなどで新しい道を模索する、江差町のマチづくりを若山昭夫町長に伺った。
――市長としての8年間を、どう自己評価していますか
若山
1期目に色々な事業を計画し問題点を整理して、それを2期目に手を付け、現在までほとんど実現できたことは、私自身は、ほぼ満足がいく状態ですね。
──約8年間の町政をどのように進めてきましたか
若山
終始一貫変わらないのは、町民と同じ目線で物事を考え行動したことです。町民にとって何が必要かを考えた時に、命と健康に関わることが大事だと思います。これを守るために、江差町を含めた近隣町村で、初めて脳神経外科の診療所を誘致しました。これは、一つの大きな成果だと思います。去年の暮れには、在宅総合福祉施設をオープン。また道にお願いして、福祉住宅のシルバーハウジングもできています。このように住民の健康と命を守る環境ができたことが、評価できると思います。
──基幹産業の一つである農業や漁業については
若山
農業は、農産物の生産振興として、試験畑研究を就任2年目から取り組みました。私は、地域の土壌や気候、風土に合う作物を試験研究した上で、栽培を手がけた方が失敗も少ないと考えます。今年7年目で、いちごの高設栽培や花卉(リンドウ)の花など、色々と試験研究をして、江差に合った作物を何に絞るか模索している段階です。後継者も少ない時代に若い人々が、将来に希望を持って農業に携わるために、試験畑を通じてより良い物を模索していく方向付けをする必要があります。
漁業は厳しい状況で江差の浜をいかに豊かに活性化していくかが重要です。現在、藻場という草や藻などを沿岸漁場に繁殖する造成をしています。どの地域でもウニやアワビの放流をしていますが、北海道の漁場活性化に向け、江差の浜の振興をできればと思います。
──クリーンエネルギーである風力を利用した振興も図っていますね
若山
去年の11月20日から試験送電が開始されました。現在は、調整しながらより良い性能稼働に向けた作業中で、4月から本格稼働する予定です。
これからは国が構造改革で自治体を縮小していく状況にあり、いかに自治体が自立をするかが課題だと思います。自立するにはマチの持つ特徴を活かして活性化を図らないといけません。江差町の場合、企業誘致できる状況はありませんから、クリーンエネルギーとして無尽蔵に持つ強い風をどう利用するかがマチの経済活性に結びつく一つの方向性だと思います。
当初の計画では、江差町が資本金の51%を提供し、あとは大手企業が一切の責任をもって行う予定でしたが、大手企業が資金繰りできない状況になり、急遽、議会で説明して損失補償を受けて、第3セクター「江差ウインドパワー(株)」の運営となっています。現在、江差町の出資は51%から80%へと変わり不安の声が挙がりましたが、自治体が主体性を持つウインドパワーとして、その発展に命運をかけて取り組み、また財産として残す責任も持っています。17年間は北電との売電契約もして収入が確定していますので、あとは風が吹いて風車が回るだけですから、事業運営について心配はありません。
──温泉を有するホテルの建設計画も進められていますね
若山
去年、かもめ島入り口で民間の手でボーリング調査した結果、温泉の掘削に成功しました。そこで民間から温泉を有するホテルを建設する計画が持ち上がりました。現在、温泉を有する宿泊施設は江差に無く、また温泉が出た土地は13年間も利用していませんでした。私としては、このまま一等地を遊ばせておくことが江差町にとってプラスではないですし、その土地を有効利用することで、江差町の将来、また近隣町の地域振興に大きな効果をもたらす観点から利用したいと思っています。
民間側が同じ発想・構想を持って温泉ホテルを建設したいとの考えでしたので、この機会に民間の力を最大限に活かしながら支援したいと思っています。しかし、住民の中に島の景観問題や第三セクターとして事業が成功するのか心配する声があり、民間側の責任者も見直しを図る動きがあるものですから、私もはっきりと明言できない状態で、最終的に出る結論を待って態度を決定したいです。
しかし逆に、江差町に100万人の観光客を呼びたい動きもあります。これは宿泊施設を完備しないと、到底その夢は実現しないですから、課題・問題があってもなんとか乗り越えなければなりません。
──多くの観光客を呼ぶには、広域的に観光ルートを考えなければいけませんね
若山
自分達のマチだけで物を考える時代は、終わったと思います。これからはいかに近隣町、あるいは関係する自治体・地域同士が、どう連携するかが課題になると思います。もっと従来の既成概念を乗り越えた観光というイメージを持って考えなければなりません。
合併問題も将来は出てくると思いますが、そのことも想定した中で、幅広い見地から物事を受け止め考えていかなければなりません。
──その合併問題については
若山
国の流れが自治体改革の方向に来ており、聖域なき構造改革の中で、自治体の再編改革は避けて通れない道だと思います。しかし現在、檜山管内では具体的な議論にはなっていません。江差町としても過去に合併の経験があり、現在でも住民の感情的なしこりが残っている状態です。
──合併のパターンは
若山
国が示しているパターンは檜山管内で、上ノ国・江差・厚沢部が一つ、熊石と乙部、そして北部4町のパターンがあります。しかしこのパターンで良いのかは充分議論しなければなりません。現在、各町段階で検討委員会ができて、検討に入っている段階です。
──檜山支庁の存続問題も出ていますね
若山
これは、町村合併が決まらないと、支庁再編できないですから、あくまでも町村合併の目鼻が付いた段階で支庁再編が具体的に決まると思います。また、支庁の範囲や支庁の存在そのものに対する組織概要の集約が当然あります。
しかし私自身、都市部集中にすごく抵抗感があります。やはり均衡ある地域の振興を図るとすれば、今のIT時代に情報はどこでも手に入りますから、決して都市部に集中する必要はないと思います。逆に地域の振興を図るために過疎地域に目配りをすることが振興ある地域の発展だと思います。
──北海道新幹線の実施計画が申請され、いよいよ本格的に始動しましたが、江差町は、新幹線ルートに入っておらず、その影響が懸念されるのでは
若山
確かに新幹線が通る最寄りの駅になりませんが、新幹線が走ると逆に木古内から江差に入ってくる人が増えると考えます。しかし新幹線ができることにより、木古内〜江差間の江差線の廃止の是非が出ていますが、以前から私たちは新幹線と絡めた江差線の廃止はあり得ないと言っています。
また、それに平行して、地方の高規格道路の絡みもあります。現在、道路特定財源問題で高規格道路については全く先が見えない状態ですから、方向性を示した中で議論してもらわないと納得できません。高規格道路については調査機関にあげてほしいと要請しています。その調査した結果、高規格道路が通るのか、はっきりしてもらわないと地域に期待させたままではいけないですね。新幹線その物が通る事は良いのですが、しかし新幹線ができたので、これの影響で江差線、高規格道路を廃止されるのでは済まされないと思います。
──今後の展望・抱負は
若山
昨年度から新しい10カ年計画が始まり、「自然・歴史・文化が輝く北の交流拠点えさし」を目標に施策を進める考えでいます。継続事業がほとんどですが、それを基本として、先程述べた風力など新しい事業にも着手していきます。
また、平成7年の集中豪雨災害で田沢川が氾濫し、30数棟が床上浸水しました。現在の普通河川だと大きな雨量があった場合には対応できないので、去年、普通河川から一挙に2級河川に昇格して、14年度から調査が入り、住民などの意向を聞き入れながら、調整・設計して工事する予定です。
それと以前からの懸案事項で、今年の4月から中学校3校を統合します。それに併せて老朽校舎、小学校の古い校舎を建て替えるための基本計画を14年度末までに終了したいと思っています。
江差町は大きな課題はたくさんありますが、しかしその事により、逆に色々と悩みや苦しみを抱えている所にエネルギーが生まれ、力として発信できます。大きな課題を抱えていることは、自分のやるべき事に対する使命感に燃える意識を持てますから、常に緊張感を持って町民の目線で見ながら、自分のやれる最大限のことはしていきたいと思います。一番やらなければならない事は、地域の将来を考えるため、収入を目指す土壌づくりが必要ですね。一次産業をどうするか。新しい地域の特性を活かし、収入を生み出す方法を自治体独自で模索していかなければならないと考えます。

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