建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年2月号〉

interview

100年の歴史を持つ大阪市の下水道

合流式下水道からの雨天時下水越流対策が課題

大阪市都市環境局長 赤井 仁孝 氏

赤井 仁孝 あかい・よしたか
昭和 17年 1月 30日 生(59才)
昭和 43年 3月 大阪市立大学工学部土木工学科卒業
昭和 40年 4月1日 大阪市土木局勤務
昭和 48年 4月25日  〃  東南下水道事務所下水係長
昭和 54年 6月28日  〃  土木部河川牒河川係長
昭和 60年 4月13日  〃  下水道局建設部管渠課長代理
昭和 62年 4月20日  〃  平野下水処理場長
平成 2年 2月20日  〃  管理部参事(日本下水道事集団出向)
平成 5年 4月1日  〃  建設部工務課長
平成 7年 4月1日  〃  東部管理事務所長
平成 9年 4月1日  〃  建設部長
平成 12年 4月1日  〃 下水道局長
平成 13年 4月1日  〃 都市頗境局長(現職)
100年の歩みを持つ大阪市の下水道は、老朽施設の更新と共に機能の強化を図っている。高度処理も早くから着手しており、水質改善はかなり進んでいる。それでも解決すべき課題はある。大阪市の赤井仁孝都市環境局長に、下水道事業の課題と政策について伺った。
──大阪市の公害はどんな状況でしょうか
赤井
大阪市は、国際集客都市を理念に、まちづくりを行っており、それにふさわしい都市環境づくりを目指していますが、大都市なので、水質、大気ともに、汚染度がどうしても若干高くなっています。
大気に関しては、固定発生源と呼ばれる事業所・工場などから排出されるNOXやSPMなどは解消されつつあります。問題なのは自動車の排気ガスです。特に、貨物輸送するディーゼル車両で、このためにどこの大都市でも環境基準をクリアできずにいます。
現在、市内のディーゼル車の割合は25%くらいですが、その25%から84%のNOXが排出されています。したがって、ガソリン車よりもディーゼル車を何とかしなければなりません。すでにNOX法も改正されましたから、それに合わせた計画を策定中です。平成元年に策定した自動車公害防止計画では、総量目標を設定しましたが、その達成が困難な状況にあります。そのため、さらに22年までの新しい自動車公害防止計画を策定しています。
ただ、これに基づいて低公害車を普及させるために、単体での規制を行ったところで、今日の状況ではなかなか車を乗り換えてもらえないのです。
──水質は改善されているのでしょうか
赤井
水質については、河川は概ね環境基準を達成しています。ただ、一部では上流域の影響を受けています。大阪市内を流れる河川は、淀川と大和川を除き、あまり外水域の水は流れ込まず、都市排水が流れ込む川がほとんどです。
そのため、上流域の下水道整備が進んでいないと、下流側である大阪市でいくら工夫しても効果には限界があります。そうした状況にある河川では、一部で環境基準を達成していませんが、それ以外は概ねクリアできるようになりました。
──下水道の普及率は100%ですね
赤井
大阪市の下水道は明治27年に着手し、100年あまりが経ちました。昭和50年代半ばには、市内の下水道はほぼ整備されました。現在、99%位で、ごく一部に未整備のところがあり、未水洗トイレの世帯が200戸ほどあります。全市では100万戸くらいあるので、比率から見てほぼ完成と言えます。
整備にあたっては、水質保全のための環境対策と浸水対策の両面で行われてきました。しかし、整備を進めている間に、農地だったところが40年代にはほとんどなくなり、浸水被害が問題となってきました。そこで、昭和56年に雨水流出量を見直しました。これに基づいて実施している事業が、今行っている浸水対策です。10年に1回程度の雨で、浸水しないことが目標です。
大阪は、大阪城のある上町台地を除くと平坦な土地で、それも海面からそんなに高くありません。そのため、雨水の排除のためには大きな下水管を入れて大きなポンプを据えて川や海へ出さなければなりません。
──完成するのはいつ頃の見通しですか
赤井
完成は、21世紀に入ったので、なるべく早い時期にと考えています。工事は、大口径の下水管を布設して、大きなポンプを設置します。市内全体でそうした浸水対策事業を進めていますが、すでに完成した「なにわ大放水路」などは、大阪市の浸水対策事業の象徴です。
ところが、それでも毎年のように浸水被害が起こっており、「もう待てない」、「いつまで浸水被害が起きるのだ」という声が上がっています。以前から、局地的な対応はしてきたのですが、平成9年の浸水を契機に、この年は延べ戸数にすると1万2,000戸浸水したのですが、約300ヶ所、10年間に2回以上浸かった地域を中心に対策を図ってきております。その手法は、大規模な施設を建設するのではなく、その地域に小規模な貯留施設を建設したり、マンホールポンプを設置したりする方法をとっています。いわゆる、局地的なきめの細かい浸水対策です。
高規格道路の整備率についても、本州に比べて半分ですから、その整備促進が課題です。
──下水道施設は、老朽化していませんか
赤井
大阪市の下水道は100年あまり経っていますから、施設がかなり古くなってきています。コンクリート構造物は、通常は50年もつと言いますが、それは、構造物を取り巻く環境によります。下水管の場合は、決して良い環境ではありません。ただ、標準的には50年、機械や電気などの設備は概ね20年程度と規定されています。
下水管の総延長は4,741qですが、その17%の824qが、50年をすでに経過しています。設備は、全体の6割が20年を経過しています。しかし設備は、一部を除いて、30年維持するのは困難ですから、概ね20年くらいで更新しなければなりません。処理場やポンプ場といった設備が大半ですが、下水管ともども老朽施設のストックがずいぶんあり、放置できません。
ただ、改築・更新する際には単純な形ではなく、浸水対策として大容量化するとか、処理場などの監視設備などの更新はコンパクトにできるので、これまで監視制御を2ヶ所で行っていたのを1ヶ所に集約するなど、効率化を図っています。
──処理場の新設はありますか
赤井
舞洲スラッジセンターという集中的な汚泥処理施設を建設しています。これは大阪市内には12箇所の下水処理場がありますが、そのうちの臨海部にある8つの処理場から発生する汚泥を処理します。汚泥は焼却して、埋め立て処分しています。焼却炉では汚泥を800〜900度で燃焼させるのですが、溶融炉では1400〜1500度くらいで燃焼させると汚泥が溶けて溶融状態になり、スライム状の石になります。冷やし方によって違ってきますが、灰よりも体積が小さなスラグになります。
焼却灰は透水性のレンガブロックとして再利用しています。一方、スラグは、下水道工事の埋め戻しの際に、スラグを良質の土砂と混ぜて再利用する事を考えています。
また、これと同時に市内の下水処理場の送泥ネットワークを建設しています。一部の処理場には汚泥処理施設があるのですが、汚泥処理施設のないところでは汚泥は他の処理場に送り、脱水機にかけています。ただ、焼却施設がないところは、脱水した汚泥を焼却施設のある処理場に運び込み焼却しています。それを埋め立て地に運んでいるわけです。それを全部パイプでネットワークし、当面、臨海部にある処理場分については舞洲スラッジセンターで脱水、溶融をします。こうすれば、既存の処理場の脱水機が大幅に削減でき、一部の処理場では焼却炉も不要になります。これによって、汚泥処理の管理は効率的になります。
──処理場ネットワークの再構築ですね
赤井
大都市の下水道が抱えているもう一つの問題は、合流式下水道の雨天時の越流の問題です。合流式下水道は、一つの下水管で汚水と雨水を一緒に流すもので、降雨時に、全部が処理場に行くのではなく、大半は直接川や海に流れ出てしまいます。これが問題となっています。
そこで、放流負荷を分流式下水道と同じくらいにする必要があります。大阪市は97%が合流式ですから、全域で対応しなければなりません。多額の事業費と時間がかかります。14年から、650億円をかけて合流式下水道の緊急改善対策を実施します。
とりあえず、放流負荷の軽減を図り、ゴミが出にくくすること、また大腸菌なども流出しますから、川へ吐き出す箇所を減らすなどいくつかのメニューを考えており、5ヶ年で緊急対策として取り組みます。対象河川や海への流出口は、雨水吐やポンプ場など、全部で114ヶ所になります。単に出口を閉めたら良いという問題ではありません。豪雨のときはポンプを稼働しないと浸水しますから。
そこで、本市で考えているプランの一つは、汚水の処理量の2倍の雨水を処理場の中に入れて処理することです。さらに、雨水滞水池を作り、特に汚れている降雨初期の雨水を溜めておき、降雨後に処理することです。全市で100万Fくらいの雨水滞水池を作る方針です。また、雨水吐の統廃合も考えています。
──高度処理は行っていますか
赤井
高度処理もかなり以前からやっています。従来の処理法はSS、BOD、CODといった、目に見える汚れを除去するのですが、除去率は概ね95%くらいです。それを97か98パーセントに上げる方針です。また、大阪市は大阪湾という閉鎖性の海域を抱えていますが、毎年赤潮が発生します。これは、生態系に大きな影響を与えるため、その原因物質である窒素やリンといった富栄養化物質の除去を行っています。特に窒素は30%くらいしか除去できませんから、高度処理をしなければなりません。しかし、生物学的に窒素化合物を窒素ガスにして大気に出してしまう方法では、従来の約2倍の水処理施設の容量が必要です。
そこで、効率的に窒素を除去するための技術開発を以前から行っており、これにより、既存の施設でも窒素除去が可能な処理法の実用化にメドがたったことからこの処理法を導入する工事を今年度から着手しています。なかなか一気には、いきませんけど(苦笑)
──処理場も、最近は周辺環境や都市景観に気を使うようになりましたね
赤井
本市の現行の第9次下水道整備5ヶ年計画では、浸水対策、高度処理と合流式の改善、そしてアメニティの3つを政策の柱にしています。従来から、修景施設を作って市民に楽しんでもらったり、下水道施設から発生する消化ガスや汚泥の再利用も行っています。
今年度からは、消化ガスを使った燃料電池の実用化を図ります。また、処理場の水処理施設は水面が見えるようになっていたのですが、これに覆蓋して、多目的な広場を作ります。順次このようにして、スポーツの広場や家庭菜園などとして市民の皆さんに使ってもらおうと考えています。
この他、市内の水源が枯渇した河川に、高度処理水を流したり、大阪城の堀の水も高度処理水で復元するなど、下水道の持つ色々な資源を有効に利用して、市民に親しまれるような政策を進めていきます。

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