建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年1月号〉

interview

前例にとらわれずに地域との連携強化

国土交通省北海道開発局 建設部長 竹田俊明 氏

竹田 俊明 たけだ・としあき
出身(本籍)北海道
昭和 47年 3月 北海道大学大学院修了
58年 4月 北海道開発庁北海道開発局小樽開発建設部道路課長
59年 6月 同北海道開発局札幌開発建設部道路調査課長
61年 6月 同北海道開発局建設部道路計画課長補佐
63年 6月 同北海道開発局建設部道路計画課道路企画官
平成 2年 6月 同北海道開発局室蘭開発建設都次長
5年 6月 同北海道開発局長官房情報管理室長
6年 4月 建設省関東地方建設局道路部道路企画官
8年 7月 北海道開発庁北海道開発局建設部道路計画課長
13年 1月 首都高速道路公団副理事長
10年 6月 同北海道開発局旭川開発建設部長
11年 7月 同北海道開発局札幌開発建設部長
13年 7月 現職
省庁再編以前から建設、運輸のみならず農水の三省の出先機関を統合していた北海道開発局は、さらに補助金交付事務も加わったことで、地域とはさらに総合的で効率的なコミュニケーションがとれるようになった。竹田俊明建設部長は「前例にとらわれずに、地域との連携強化と職員の意識改革に努めたい」と語る。国土交通省北海道開発局となり、新機能も加わった局において、建設部長としてどう活躍するかに期待がかかる。
──北海道開発局は、省庁再編以前から道路と河川、港湾と空港、更には農業基盤整備の分野が一体となっている組織として、理想的な組織ですね
橋本
北海道開発局は、農業の直轄事業としての基盤整備も所管しており、更に省庁再編により公共事業の補助金交付事務も担当することとなりましたから、公共事業を進めるうえでは、総合的で効率的な開発行政を進め得る組織となったと考えています。
建設部においても、以前から港湾・空港整備や農業基盤整備とどう連携をとるか、常に念頭に置きながら事業を進めてきたつもりですが、国土交通省となったことを契機に、一層これを意識して事業を進めなければと考えています。
また、組織面ばかりではなく、より実効性を上げるために、国と地域との連携に基づき北海道開発の効果的な展開や社会資本の効果的重点的な整備などについて、相互に緊密な意思疎通を図り、意見交換を行うべく、国土交通省、北海道および札幌市で構成する北海道開発連絡会議やその地方組織として北海道開発局や道の出先機関と自治体とで構成する地域連携会議を設置し、コミュニケーションを活発化することとしています。
──予算面では、特に道路整備費の割合が大きいですよね
橋本
北海道開発事業費の中でも、道路整備事業費は約34%と大きな比率を占めています。北海道は、国土面積の22%と広大な地域に都市が散在しており、都市間距離は、全国に比べて約2倍と、いわゆる広域分散型社会となっています。
一方、旧国鉄の地方交通線の廃止などもあって、自動車やバスといった陸上交通に頼らざるをえない地域が多いわけです。当然、貨物輸送も自動車輸送が大部分を占めています。
その一方で、雪害や地震、火山噴火などの自然災害によって国道が通行止めになると、国道の網が粗いために、迂回路が長くなり、都市間移動における時間距離はより大きくなるという状況にあります。
これは一例ですが、それだけに道路整備は重要です。
拠点都市間の時間距離を短くし、地域の連携強化や広域的でスピーディな救急医療活動の支援といった、道民の暮らしの充実を図り、観光資源を活かした観光産業の振興、わが国の一大食料供給基地として食料の効率的、安定的な供給のための道路整備、そのため、特に高規格道路や地域高規格道路の整備は重要です。
また、生活空間でのバリアフリー化、都市部の渋滞対策や都市整備のための道路整備、災害に強い道路整備、また安全で確実な冬期交通を確保するための防雪対策、そして消融雪施設など、冬期の安全でゆとりのある生活環境、都市環境創出のための道路整備は重要です。
──寒気の強い北海道では、10月の初旬には早くも峠で雪が降ったり、路面が凍って通行止めになったりしますね
橋本
北海道においては、都市間移動において,道東方面へは標高1,000mを超える日勝峠、道南方面へは中山峠、オホーツク方面では石北峠など峠越えが必要で、スパイクタイヤの禁止以降、冬期の安全な道路交通の確保に向け、路面管理がより重要となっています。
他方では、そのためにも、標高の低い位置でルート選定された、規格の高い高速道路など高規格道路の整備促進は北海道にとって重要な課題となっています。
――高速道路の整備は、北海道の産業振興や物流にとって重要な柱というわけですね
橋本
本州に比べると、道路ネットワークという点では、網の目は粗く、幹線道路が自然災害などで通行止めとなった湯合には、かなりの迂回を強いられます。ですから、一般道路と高規格道路が相まったネットワークの形成によりリダンダンシーの確保が必要だと考えています。
また、今日では、地域が各々の個性を活かしながら競争する社会になっています。農産物を安くしかも効率的に輸送したり、時間を有効に利用しながら観光を楽しむという面でも、高速道路を含めた道路の位置付けが重要となります。ところが、同じ土俵に立って競争できる条件を満たしているかといえば、まだまだです。
高規格道路の整備率についても、本州に比べて半分ですから、その整備促進が課題です。
──高規格道路や高速道路がなければ、旅行するにも長期間でなければ充分に楽しめないでしょう
橋本
そうですね。小樽は、運河の保存運動を踏まえ、運河保存と道路整備の両立を図った都市整備を契機として、観光地として発展してきましたが、平成4年までは、札幌市と高速道路で繋がっていませんでした。今では、高速道路が繋がり、札幌―小樽間は30分でいけるという定時性が確保されています。また、千歳空港までの時間をきちんと計算できることもあり、小樽観光の集客力が大いにアップしたわけで、このことに高速道路の果たした役割は非常に大きかったのです。
北海道の今後の課題は、夕張まで供用されている高速道路の道東道を早く延伸することなどネットワークをつなげることが北海道内の強い要望となっています。
──災害時にも通行を確保するための防災対策も課題ですね
橋本
平成12年に噴火した有珠山をはじめ、北海道は5箇所の常時観測火山を抱えていますし、平成5年の釧路沖や南西沖、平成6年の東方沖など、大規模な地震に見舞われており、平成8年の豊浜トンネル、9年の第2白糸トンネルの岩盤崩落など、自然災害が非常に多い地域です。今年の10月に、国道333号で道路法面の土砂崩落が発生し、通行中の車両1台が巻き込まれ、2名の方が亡くなられました。
道路交通の安全確保を重大に受け止め、道路の法面、岩盤斜面の防災対策を進めてきたところであり、今回の法面の崩落は、道路管理者として痛恨の極みであります。現在、土砂崩落調査委員会を設置し、原因の究明をお願いしているところです。また、道路法面の緊急調査を実施し、再発防止に向け、防災対策を重点施策として進めることとしております。
また、有珠山の噴火では、国道230号が噴火口の一つになってしまいました。今は、道道を国道にして通していますが、大きく迂回しています。そのため、新ルートの整備や避難路となる453号などの整備が必要です。
また、道南と道央を結ぶ高規格道路の北回りルートの早期整備の必要性も出てきました。これらの調査検討も進めているところです。
──ところで、IT基盤整備は進んでいますか
橋本
政府もIT社会の構築を大目標として掲げていますし、国土交通省としても、電子入札、電子納品などについて、平成15年直轄事業での前倒し実施を目標に準備を進めており、開発局としても、その方向で努力しているところです。
道路では、地下に電力や電話線などのケーブルを収納できる地下空間の整備、いわゆるCCBOXの整備を進めてきましたが、そこに光ケーブルも通します。市街地でない所には、CCBOXの代わりに情報ボックスを設置していきます。目標は、2010年までに道内の各支庁所在地を結ぶ2,800qです。
これを利用して、今後とも、独立行政法人の開発土木研究所とも連携しながら、道路管理の高度化を図るとともに、安全な道路交通の確保に向けITSの開発や活用を図っていきたいと考えています。
── 一方、治水・砂防事業の進捗状況は
橋本
広大な北海道には、泥炭層などの軟弱地盤が広く分布し、また一方多くの活火山があることから、今なお、洪水被害や土砂災害、火山災害などの自然災害が度々起こっております。一方で21世紀を迎えて、恵まれた自然環境を活かした北海道らしい生活空間の整備、質の高い生活環境の整備も求められています。ですから、河川整備を進めていく上でも、北海道らしい雄大な景観や、水と緑の豊かな自然環境との調和が極めて重要なテーマだと考えています。
豊かな自然が残っている北海道の河川を所管している開発局では、全国の多自然型川づくりに先駆けてAGS(アクア・グリーン・ストラテジー)や、「魚や鳥や人にやさしい川づくり事業」に取り組み、成果を上げてきました。
更に今後は、平成9年の河川法の改正により、治水、利水に加え環境が柱として加わったことも契機に、今後は、環境保全から踏み込んで、自然環境の回復・復元にも取り組んでいきたいと考えています。
具体的には、釧路川周辺に蛇行した旧川があるので、これを復元して水を通すことで、乾燥化しつつある釧路湿原の保全・回復を図ろうと考えています。
また、根室管内の標津川も、地元からサケを含めた魚類の産卵の出来るような旧川の復元への要望が出ています。この復元についても取り組んでいく予定です。
一方、河川・ダム空間の利用促進については、地域づくりの観点から非常に重要なテーマです。
従来から、多くの市民の方々に健康増進やスポーツのため河川空間が利活用されていますが、特に最近では、河川空間を、水と緑の豊かな自然環境空間として捉え、自然に触れあう場として利活用する動きが強まっています。
また、子供さんに、河川にはどんな昆虫や魚類がいるのか、あるいは水質はどうかといったこと、上水として飲む水について健康や命とのかかわりという視点から、環境教育の取り組みとして河川を活用しようという動きがあります。
そうした活動も応援していきたいと考えています。
──防災対策については万全ですか
橋本
水害の防止や軽減のためには、河川整備の一層の促進が必要ですが、一方、地域と連携した防災体制の充実が非常に大切です。地域と連携して水防演習を行ったり、洪水対策の拠点になる防災ステーションの整備を進めています。現在、供用済みや工事中の防災ステーションは全部で7箇所あり、基盤整備は局で行いますが、いわゆる箱モノは地域の自治体で対応していただく形で、地域と共同で取り組んでいます。
また、水防法が改正され、河川の浸水想定区域の公表や洪水時の河川水位などの河川情報の提供が規定されました。
浸水区域の公表については、留萌川で既に公表したところですが、他の直轄河川については、年度内には全ての河川で公表できるよう作業を進めているところです。
また、洪水や浸水被害が出た場合に、住民の方々に、どの場所に避難してもらうか、災害時の対応はどうするのかなどの計画は、市町村で作成しますが、その作成に開発局が協力していくこととしています。
──工事におけるリサイクルの徹底は図られていますか
橋本
北海道は、最終処分場が逼迫した状況にあるので、循環型社会の構築、建設のリサイクルを図っていかなければなりません。特に、種類別特定5品目つまりコンクリート塊、建設汚泥、建設混合廃棄物などが多く排出されています。全国の排出量に対する北海道の排出量の割合は約5%です。
北海道の建設産業では、発生抑制、マテリアルリサイクル、サーマルリサイクル、最終処分といった流れの中で、「3R活動」と呼んでいますが、リリース・リユース・リサイクルを推進しています。平成7年度センサスの結果では、アスファルトコンクリ−ト塊がリサイクル目標に対して、91%と高くなっています。しかし、それ以外のリサイクル率は非常に低い状態です。そのため、建設副産物リサイクルモデル事業への取り組みとして、リサイクル率を高めるための新技術の研究を行っています。
──公共事業のアカウンタビリティには、どう工夫していますか
橋本
財政状況の厳しさ、公共事業批判などを踏まえ、公共事業のアカウンタビリティがより求められる時代になりました。計画決定プロセスの透明性が求められており、また、計画段階から関係者の意見を取り入れるPI(パブリック・インボルブメント)手法の活用、河川整備計画策定にあたっては、流域懇談会などを開催するなど、地元の意見を取り入れる取り組みなどをすすめております。
この他には、昨年1月6日に各開発建設部に「地域開発相談所」を設置しました。地域の活性化への取り組みや、局が施設整備・管理している施設の有効利用に関して、地域の方々からの相談に積極的に対応していこうということです。
──道民にとって関心の高い、開発予算の今後の動向については
橋本
経済社会の構造改革という時代の大きな変わり目にあって、来年度予算編成に当たり、公共事業費の1割削減や道路特定財源の見直し、道路公団の民営化など特殊法人改革、高速道路整備のあり方の見直し議論などがなされています。
どれも、北海道の社会資本整備にとって、また、北海道経済にとって影響の大きなテーマです。
それゆえ、これらの議論の内容やその影響等について、道内の首長の方々や経済界に、きちんとご理解頂く努力をするとともに、道庁や経済界と連携して、中央に北海道の実情、現状を知ってもらう、理解してもらうことが大事だと考えております。
そのためには、北海道が個性と創造性を発揮して地域の活力を回復できるように、局職員あげて現下の情勢認識を共有しながら取り組んでいかなければなりません。そのためにも、開発局は組織再編の結果、社会基盤整備において総合的な行政が行えるようになりましたから、より地域に目を向け、地域から信頼されるような取り組み姿勢が大事です。そうした意識改革を職員に浸透させていきたいと思っています。「地域あっての開発局」ですから、地域との繋がりを大事にし、前例にとらわれずにやっていこうと考えています。

HOME