建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年1月号〉

interview

明日の北海道を支える産業の構築

バイオテクノロジーの可能性は

北海道知事 堀 達也 氏

堀 達也 ほり・たつや

昭和 10年 11月 22日生まれ、北海道大学農学部卒
58年 5月 北海道林務部林産課長
59年 4月 北海道林務部道有林管理室経営管理課長
60年 4月 北海道総務部知事室秘書課長
62年 5月 北海道生活環境部次長
63年 4月 北海道土木部次長
平成 元 年 4月 北海道総務部知事室長
3年 5月 北海道公営企業管理者
5年 6月 北海道副知事(〜平成6年11月)
7年 4月 現職、現在2期目
ITバブルが崩壊したところに、テロリストが乗っ取った航空機が、世界経済の象徴でもある世界貿易センターを直撃。現代の経済に大打撃を与えた。この余波もあって、わが国の景気も、事実上はデフレスパイラルに入りつつある。全国で最も早く不況となり、全国で最も遅くに回復すると言われる北海道にとって、地域に相応しい、主導権を握れる新しい産業とは何か。堀達也北海道知事に見解を伺った。
――2001年を振り返って、どう概観しますか
21世紀の幕開けとなった2001年は、激動の年になりました。ITが牽引してきた世界経済が減速傾向に入ったところに、米国で同時多発テロが発生し、世界経済が不透明感を増す中で、国内においては、「聖域なき構造改革」を掲げる小泉内閣が誕生しました。一方、日本で初めて牛海面状脳症(BSE)が確認されるなど、内外ともに大きく揺れ動いた一年ではなかったかと思います。
北海道では、長引く景気低迷の中で、完全失業率が7月から9月に5.1%と拓銀破綻直後の水準にまで悪化し、国の構造改革に伴う、さらなる「痛み」に対して、大きな不安が広がりました。
私としては、地域の経済・雇用に及ぼす影響を最小限にとどめながら、国の改革を追い風にして、道独自の構造改革を加速するという考えのもとに、雇用のセーフティネットの整備はもとより、民間主導の経済構造への転換や自主・自律の地域づくりに着実に取り組むとともに、分権時代にふさわしい行財政システムや自立と貢献に必要な社会資本の整備などについて、道としての提案を国に対して積極的に行ってきたところです。
また、本道経済全般に大きな影響を与えたBSEに関しましては、牛と飼料の徹底管理をはじめ、肉骨粉の使用禁止、そして出荷前の検査といった生産から流通、消費にいたる三段構えの安全対策を講じるとともに、適切な情報提供を行い、道産食肉の安全確保と消費者の信頼回復に努めてきました。
――まさしく新世紀の幕開けは、暗い出来事ばかりが起きましたね
しかし、厳しい状況の中でも、明るい話題はありました。懸案であった新千歳空港の滑走路延長問題では、地元の皆さんのご理解が得られたことをはじめ、新千歳と上海や香港、ユジノサハリンスクを結ぶ定期便の就航が実現しましたし、有珠山の噴火災害以降、減少していた観光客の入り込みも回復基調に転じたほか、苦しみながらもJ1残留を決めたコンサドーレ札幌の健闘もありました。
本道にとっては、確かに今後も厳しい状況が続くのではないかと思いますが、私は大きな変革の時代に、道政を預かる知事としての責任の重さをかみしめ、本道が持っている価値や可能性を最大限に引き出せるような、21世紀にふさわしいパラダイムを創造していかなければならないと決意を新たにしています。
――観光産業の大きく依存する経済構造は、観光資源に飽きられたらピンチで、特に景気がダイレクトに影響する不安定さもあって心許ないのでは
そうとも言えません。北海道は、雄大な自然や明瞭な四季、豊富な味覚や温泉など、優れた観光資源に恵まれており、観光客は、順調に増加しています。平成12年は、有珠山噴火の影響もあり、南西沖地震の影響で落ち込んだ平成5年度以来の前年度割れとなりましたが、今年度の上半期には、噴火前の平成11年度の実績まで回復してきています。
これも、JTBの調査で北海道が2年連続で行きたい旅行先の1位になるなど、北海道に対する根強い人気に支えられているものと考えています。
また、観光は、関連する産業のすそ野が広く、経済波及効果が大きく、平成11年度に実施した調査によると、総観光消費額は約1兆2千億円で、その生産波及効果は、約1兆9千億円にも及び、観光産業が本道経済を支える大きな産業になってきていることが伺えます。
このように、観光は、厳しい経済環境の中にあって、成長が見込まれる分野の一つです。
このため、道としては、本道を誰もが安心して快適に旅行できる国際的にも通用する観光地とし、観光産業を本道のリーディング産業として大きく発展させることをめざした「北海道観光のくにづくり条例」を制定し、10月19日に公布・施行したところです。
今後は、この条例に基づいて、観光の担い手である道民、事業者、行政が協働して魅力ある観光地づくりを進めていくとともに、これまで以上に一次産業など他産業と連携を図っていくことで、北海道の社会・経済の活性化につなげていきたいと考えています。
――農業を基幹産業とする北海道はバイオテクノロジーで優位に立てるのではないでしょうか
道内には、合成DNAや機能性食品など、特色のあるバイオ関連企業が存在し、北方系植物やコラーゲン、コンドロイチン硫酸などの地場資源を活用した産学官の共同研究や、その事業化も積極的に行われています。
また、バイオ技術の知的集積という点でも、北海道大学や帯広畜産大学などの大学群が、豊富な研究シーズを保有し、糖鎖工学や植物バイオなどの研究分野において優位性が認められます。
平成12年4月に人事院規則が改正され、国立大学の教員が民間企業の役員を兼ねることが可能になったことを受けて、平成12年9月に、北海道大学教授らにより大学発バイオベンチャーの国内第1号となる潟Wェネティックラボが設立されました。そして平成13年3月には、道内2番目となる潟Wーンテクノサイエンスが設立されています。
こうした道内大学の意欲的な取り組みは、大学発ベンチャーの設立に大きな役割を果たした小樽商科大学のビジネス創造センターの活動とともに、全国的にも注目を浴びています。この動きに呼応して、道としても、研究成果の民間への技術移転を一層促進するため、平成13年10月から道立大学教員及び試験研究機関研究員の兼業規制を緩和しています。
本道は、大学や試験研究機関におけるバイオ関連の技術蓄積や人材が豊富で、バイオ資源にも恵まれていることから、こうしたポテンシャルを活かすとともに、研究シーズと企業の事業化ニーズを結びつける仕組みを構築することによって、道内のバイオ産業は大きく発展していくものと考えています。
――厳しい雇用失業情勢は、着実に庶民の生活を脅かし、苦しめています。有効な対策はありますか
これまで、産業の振興を図ることにより新たな雇用の場を生み出していくという視点に立って、平成11年に策定した「5万人の雇用創出に向けた実施方針」に沿って、今後成長が期待される情報通信や福祉といった4つの重点分野を中心に、雇用の場の創出に取り組んできました。
しかし、平成13年7-9月期の完全失業率が5.1%と、前年の同じ時期に比べて0.4ポイント上昇し、全国的にも近畿や九州ブロックに次いで高い水準にあるほか、完全失業者数も1万人増加して15万人となるなど、本道の雇用情勢は、一段と厳しさを増してきており、雇用対策の一層の充実に努めていく必要があるものと考えています。
このため、緊急の雇用対策として、10月の第3回定例道議会において措置した、観光道路の整備や冬道の安全対策といった冬期の雇用対策事業をはじめ、新規成長分野産業に必要な人材の確保を図るためのトライアル雇用の支援事業や、ホワイトカラーの非自発的離職者などに対する職業訓練の実施、さらには、公共事業の見直しに伴い影響が懸念される建設業従事者の一次産業などにおける雇用の受け皿づくりについての検討などに取り組んでいるところです。
また、国の構造改革の集中調整期間である今後2〜3年において、雇用問題への対応に万全を期するための臨時応急の措置として、先の臨時国会で創設された新たな「緊急地域雇用創出特別交付金」の事業につきましても、12月の第4回の定例道議会において必要な予算を措置したところでありますが、早期に実施できるよう作業を進め、交付金事業の効果的な執行に努めていきたいと考えています。
さらに、「5万人の雇用創出に向けた実施方針」の目標期間が平成13年度末までとなっているので、今後の公共事業の見直しや不良債権の処理による雇用問題への対応を含め、平成14年度以降の道の総合的な雇用対策として、建設業などのソフトランディング対策をはじめ、セーフティーネットの充実や雇用のミスマッチ解消、幅広い起業化や事業化の促進による雇用の受け皿の拡大、経済社会の変化に対応できる人材の育成などを柱とした「新たな雇用プラン」の策定を進めているほか、平成14年度予算に向けて、雇用の創出やセーフティネットの充実に関する施策の検討を進めているところです。
――建設業の雇用吸収力や、経済への波及力は健在といえますか
建設業は北海道の開発の歴史において、本道経済の主導的な役割を果たしてきました。また、この数年、景気低迷に対するテコ入れ策として公共投資の拡大を中心とした経済対策が実施されたことにより、雇用の確保や景気の下支えに大きな役目を果たしてきたと受け止めています。
本道経済に占める建設業のウエイトは依然として高く、道内総生産に占める建設業の割合は12.1%、就業者数も全体の12.1%と、建設業が本道の基幹産業の一つであることは変わりません。
本道はまだ他府県に比べ社会資本整備が遅れている部分もあり、今後とも公共事業は必要であると認識しています。
しかしながら、「骨太の方針」で公共事業費の縮減が明記されたことから、来年度の開発予算は今年度を下回ることは避けられない情勢にあります。仮に北海道の開発事業費が10%削減した場合、gdpを0.7%押し下げ、2万人の雇用に影響を与えるものと考えています。このため私としては、雇用のセーフティーネットの整備に全力を挙げて取り組んでいます。
しかし、公共事業を取り巻く環境は、益々厳しくなっていくものと考えられます。今後とも良質な社会資本整備を提供していくためには、このような変化に対応し、基盤整備の担い手である建設業の経営体質が強化されなければなりません。企業の経営基盤の強化や、技術力の向上を図るとともに、得意分野への選択と集中など特色のある経営戦略を打ち出すことや、協業化の企業連携や合併などを視野に入れた企業戦略、また新分野での事業展開も踏まえ、競争力のある産業として発展していくことが要求されます。
道としてはこれらのことをお手伝いするために、建設業の経営体質の強化に向けて中小企業診断士の派遣や、経営の多角化へ向けてのアドバイザーの派遣など検討していきたいと考えています。
――食料供給基地としての北海道の可能性と展望をどう見ていますか
わが国の食料自給率は、熱量供給ベースで40%(平成11年)と、先進国の中で最も低い水準です。こうした中で、北海道は、豊かな大地や自然条件などを背景に、国内産供給熱量の約2割を担う、わが国最大の食料供給基地として大きな役割を果たしています。
国は、12年に公表した「食料・農業・農村基本計画」において、食料自給率を平成22年には45%にまで引き上げる目標を示しています。道においても、食料自給率の向上に最大限寄与していく姿勢を明らかにするため、10年後の本道農業の姿を展望する「北海道における生産努力目標」を13年3月に策定し、道内農業関係者挙げて取り組んでいくことにしています。
21世紀は、地球規模での人口増加が進み、また、温暖化や環境悪化が懸念される中、食料、環境問題への対応が重要な課題となっています。良質な農産物を国民に安定的に供給し、自給率の向上に寄与していくことは、自然環境に恵まれた本道農業が果たすべき重要な役割であり、こうした面での期待は一層高まるものと考えます。
北海道における農産物の生産は、こうした量的側面はもちろんですが、質の面でも高い評価を受けています。冷涼な気候条件を生かした食味に優れた農産物の生産に加え、面積当たりの化学農薬の使用量が都府県の約46%と極めて少ないなど、クリーンな農産物の生産に努めており、「安全」「安心」な農産物を求める消費者のニーズに応えるものとなっています。
また、BSEの発生により、酪農・畜産や関連業界はもとより、本道経済全体への影響の拡大が懸念されていますが、こうした問題に関係者を挙げて取り組むとともに、クリーン農業を全道展開し、北海道農業のスタンダードとなるよう積極的に取組を進めることにより、安全・安心で品質の高い農産物を道内外に安定的に供給する体制づくりを一層進めていきたいと考えています。
さらに、農業生産分野以外でも、産学官や産業間の連携による農業を核とした産業おこしの取り組みなどを進めるとともに、道内各地において生産者により進められている、農産加工や産直、グリーン・ツーリズムなど地域資源を生かした多様な取組を推進することにより、農業・農村に関わる様々な分野の活性化が期待されます。
道としては、今後とも、地域の主体性を生かした、北海道ならではの農業や食産業の高度化を進めながら、本道の専業的な農家が将来に意欲を持って経営改善に取り組めるような経営環境を整備し、本道農業が将来にわたり、食料の安定供給や多面的機能の発揮について国民の期待に応えていけるよう努めていきます。

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