建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2000年2月号〉

interview

環日本海交流の活発化をにらんだネットワーク整備

文化のかおり漂う高速道路づくりを推進

日本道路公団北陸支社建設部長 片山 修氏

札幌市出身。昭和49年北海道大学大学院修了。本四公団を経て昭和54年日本道路公団へ。同61年佐久工事事務所工事長、同63年本社環境対策次長室副主幹、平成2年本社計画第一課長代理、同3年東京第二建設局工務課長、同5年上野原工事事務所長、同10年本社高速工務課長などを経て平成11年7月現職。
――ネットワークの全体概要と整備の進捗状況はいかがですか
片山
JH北陸支社では、新潟県、富山県、石川県の高速道路の建設・管理および福井県内の高速道路の管理を担当しています。昨年10月に上信越自動車道中郷〜上越間20.4qが開通したことにより、管内の管理延長は662qとなりました。(管内図参照)
管内の予定路線の総延長は756qですが、日沿道(日本海沿岸東北自動車道)の朝日〜山形県境間を除く725q(95%)について整備計画が出されており、そのうち645q(85%)が開通しています。全国では11,520qの予定路線のうち、まだ開通延長は6,560q(56%)にしか達していないことからみれば、北陸支社管内の高速道路の整備は大変進んでいるといえます。
特に昨年は、10月30日に上信越自動車道中郷〜上越ジャンクション間20.4qが開通して上信越自動車道が全線開通したことにより、北陸地方と首都圏、中京圏が代替性のあるいくつかの経路で結びつき、高速道路ネットワークは飛躍的に充実しました。
現在、建設中の路線は日本海沿岸東北自動車道57.5q、東海北陸自動車道22.0q計79.5qの新設工事と、北陸自動車道上越〜朝日間4車線化拡幅事業のうち残る名立谷浜〜越中境pa間の暫定2車線区間40.7qの拡幅工事です。また、北陸自動車道で2箇所(富山西ic、月浦ic)の追加ic、磐越自動車道新津〜三川間で一部付加車線事業も行っています。
――環日本海における高速道路の役割を、どう位置づけていますか
片山
歴史を振り返ると、江戸時代は西廻り航路で北前船が大活躍し、日本海側の都市は海路で結ばれた海上交通の重要な拠点として発展してきました。ところが明治になって、北海道のニシンの激減や陸路交通機関の発達などの影響から次第に消えていきました。戦後、高度成長期に入ると人口が太平洋側の大都市に集中し、日本海側の各都市や地域間の繋がりは益々うすれていき、人々の目は太平洋側の大都市の方に向けられ、鉄道や道路などの交通網も大都市と大都市を結ぶ路線から優先的に整備されていきました。
その結果、主要な物流はほとんど太平洋側を経由することになり、日本海を挟んだ対岸貿易においてさえ東京、横浜、神戸など太平洋側の港が使用されるような偏った物流システムが形成されていったわけです。文化面においても同様で、最近でこそ地方の時代、地域からの発信といわれますが、今なお大都市から発信される文化を地方が受信するといった関係がメインなのではないでしょうか。
そうした太平洋側に偏った交通体系を是正し、国土も港湾も有効に活用し、日本海側の各地域がその特色を生かして活性化していくためにも、我々北陸支社が進めているネットワークの整備は、極めて重要な役割を担っているわけです。
――整備による効果は現れましたか
片山
今日、そのネットワーク整備が進み、効果が現れつつあります。たとえば、運輸省第一港湾建設局さんの報告資料によると、東京から札幌への貨物輸送コストを日本海ルートと太平洋ルートで比較した場合、断然日本海ルートの方が安いんですね。太平洋ルートというのは、東京港からフェリーで苫小牧で陸揚するルートや、大洗や仙台まで陸送してからフェリーを利用するルートなど、何通りか有るのですが、関越道で陸送し新潟港から小樽までフェリーを利用する方が3〜5割近くも安いのです。このために日本海側長距離フェリーの取扱貨物量が、ここ10年間で2倍近い伸びを示しているのです。
――第一港湾建設局は、近隣アジア諸国やロシアとの流通も視野に入れているようですね
片山
外貿についても、福島、長岡、長野といった内陸の貨物を香港など対岸諸国に運ぶ場合、横浜港など太平洋側の港を利用するより、新潟港、直江津港といった日本海側の港を利用すると約3割も物流コストが削減されるという試算があります。ですから北は秋田〜西は敦賀までの日本海側の外貿コンテナを取扱う7港湾の取扱貨物量は、ここ5年間で4倍以上も増加しました。日本海側の港を利用したことによる輸送コストの縮減額は平成10年の1年間だけでも約82億円にのぼります。しかも秋田から福井までの6県に長野県を加えた7県を生産、消費地とする外貿貨物を日本海側の港湾で取扱っている割合は年々増加しているものの、平成10年では全体の約3割に過ぎないことから、これを全て日本海側の港湾で扱ったとすると、年間約230億円も輸送コストが削減されることになるのです。ですから、今後も日本海側の港湾や空港のニーズはどんどん増していくにちがいありません。
考えてみれば、日本海は太平洋のわずか160分の1の大きさしかないちっぽけな湖のようなものです。北前船の時代のように日本海側の都市が輝きを放ち、活発に対岸諸国との貿易や交流を進める環日本海時代の到来は、このように高速道路ネットワークの整備抜きでは語れないと思います。
――北陸管内の高速道路ネットワークができれば、首都圏を迂回することもできますね
片山
それがもう一つの重要なポイントで、北陸支社管内の高速道路ネットワークは日本国内の物流体系にも大きな変革をもたらす可能性を秘めているということです。日本列島を縦断するような、東北地方から中京、関西以西への物流は東北道を利用し首都圏に入り、東名・名神や中央高速道路を経由するのが一般的ですが、磐越道や上信越道が全線開通したことにより、日本海側ルートを経由した方が有利なのです。
たとえば、東北方面から関西方面へは郡山ジャンクションから東北道・東名・名神を経由すると米原ジャンクションまでは約670q。これに対し磐越道・北陸道ルートは約620qですから約50qも近いのですね。しかも、首都圏を通りませんから定時性がありますし、首都圏側にとっても渋滞の解消に繋がります。そうした意味で、我々はネットワークの整備に伴い、首都圏からシフトした新たな物流が生れることを期待しています。
――今後、そうしたネットワーク整備を進めていく上では、何が課題となりますか
片山
よく言われることではありますが、今後整備していくルートは交通量があまり望めない割に建設費が高い路線がほとんどです。しかし、逆説的に言うならばこれらの地域は当然、採算上の理由から、必要な高速道路整備をずっと後回しにされていたわけで、それがために先ほどから述べてきた地域格差も広がってしまいました。これらの地域の方たちは、自分たちの番が来るのを首を長くして待っています。我々はその期待に応えなければなりません。
採算性を確保しつつ着実に整備を進めていく。これがまず第一に我々に与えられた大きな課題と言えるでしょう。jhでは技術基準や設計方法の見直し、あるいは新技術・新工法など様々な技術開発を進め、年6%以上のコスト縮減を目標に努力しているところです。
また、地元にも協力をお願いしていかなければなりません。今、日沿道では新潟空港〜中条間が工事の最盛期を迎えていますが、この区間では約900万Fもの盛土材を県や運輸省、自治体から提供していただき、公共事業からの発生土によって確保させていただきました。コストの縮減のみならずリサイクルを進める意味からも、こうした事業調整を今後ともお願いしていかなければと思っています。
――いかに安く仕上げるかがポイントですね
片山
とはいっても、こんな話ばかりしているために、いかに安く高速道路をつくるかということばかりを考えているようですが、そんなことはありません。むしろ、我々は沿道や地球環境に配慮しつつ、地域に密着した質の高い高速道路づくりを目指しています。
昨年10月30日に開通した上信越道の中郷〜上越ジャンクション間では随所にその成果が現れています。たとえば、高機能舗装を全面的に採用し走行時の快適性や安全性が格段に向上しました。休憩施設の園地部や駐車マス間に積極的に植樹して木陰のある駐車場にし、樹木やアイドリングストップ効果などで環境にやさしく潤いのある休息空間を創出しました。ハイウェイオアシスや休憩施設建物における地元pr展示スペースの設置など、地域との連携にも力を入れています。
――様々な取り組みをしているようですね
片山
その他にもたくさんの工夫をしていますので、是非一度ご利用になられてみていただきたいと思いますし、現在建設中の路線でも様々な試みを行なっています。そうしたハードとソフトの質の向上が、これからの高速道路には必要だと思います。北陸支社では、これを「文化のかおり漂う高速道路づくり」を合い言葉に進めており、より一層の向上をめざしていきたいと思っております。

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