建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2000年1月号〉

interview

新生・都市基盤整備公団

都心居住の推進と集合住宅施工技術の最先端を担う

都市基盤整備公団技術監理部長 亀田隆義氏

亀田隆義 かめだ・たかよし
群馬県出身。1967年東北大学工学部建築学科卒業。同年日本住宅公団採用、東京支社東京川の手都市整備事務所長、同都市再開発部長、土地有効利用事業本部計画部長等を経て平成11年6月建築技術部長。
平成11年10月の新法人移行に伴い、現在、技術監理部長。
庶民に廉価で良質の住宅を供給してきた住宅都市整備公団は、昨年の10月にその歴史に幕を引き、都市基盤整備公団として新たなスタートを切った。都市の開発、特に再開発や地域のまちづくり及び賃貸住宅の供給、管理に業務の重点をシフトした。この針路転換とともに、これまで公団の技術、施工をリードしてきた建築技術部も技術監理部へと体制を変えた。同公団の亀田隆義部長に、今後の公団住宅の構造、質、技術などについて伺った。
――10月から再スタートを切った都市基盤整備公団の概要からお聞きしたい
亀田
平成9年6月に「特殊法人等の整理合理化について」の閣議決定を受け、10月1日付で旧住宅・都市整備公団が廃止され、同じ日付で都市基盤整備公団が発足しました。
昭和30年に日本住宅公団が誕生し、56年に住宅・都市整備公団に改組されましたから、大きく言えば今回が2回目の転機となります。これまで住宅、宅地の大量供給という使命を背負って来たわけですが、そこから針路を大きく変えて都市の基盤整備へ重点をシフトします。
特に全体として期待されているのは、既成市街地を中心とする市街地整備ということになります。具体的には大都市地域等で地方公共団体や民間によっては十分に整備が期待されない、市街地の整備改善、賃貸住宅の供給・管理に業務分野を再編するわけです。
――業務分野の見直しによって、新公団の役割はどのように変わりますか
亀田
市街地の整備改善業務では、公共施設の整備や土地の整序を伴う敷地の整備、宅地造成を推進しますが、建築物の整備は基本的に民間に委ねる方針です。したがって、実施中のものや、再開発に伴い必要となるものを除き分譲住宅業務からは撤退します。また、新規の賃貸住宅業務も民間による供給が困難なものなどに限定します。
全国で73万戸ある既存の賃貸住宅については新公団に引き継ぎ、建設年代の古い既存賃貸住宅について、計画的なリニューアル、建て替えを実施します。その中でも新しい試みとして、公団としては国の財政支援を受けて高齢者向けに改造し、家賃を軽減して一定の所得以下の高齢者等に提供したいと考えています。
大きく異なるのは家賃ですが、これまでの原価基準方式を改め、近傍同種の住宅の家賃(市場家賃)を基準として設定する方式へ移行します。継続居住者についても近傍同種の住宅の家賃、従前の家賃、経済事情の変動等を総合的に勘案して改定しますが、特に低所得高齢者等に対しては国の財政支援により、一般居住者より家賃の上昇を抑える考えです。
――地方公共団体や民間との連携も課題ですね
亀田
そうです。市街地の整備改善を推進するため、必要な調査、関係者の調整などのコーディネートや、その他の技術提供に努め、事業の受託業務を拡充します。
一部の方から「もう住宅は造らないのですか」と端的な質問を受けることがありますが、11年度の事業計画では年間1万8,000戸(公団賃貸住宅12,500戸、再開発・街づくり関連住宅4,000戸、公共団体施策住宅1,000戸、公団分譲住宅500戸)分の予算が配分されています。
さらに12年度予算編成に向けては、前年度と同じ戸数をこの夏に概算要求しています。したがって、公団の分譲住宅事業は、経過措置として5-10年は続くと思います。11年度予算においても分譲住宅は500戸分を確保しています。また、業務の範囲については、都心部に重点を置く形となり、例えば、東京圏でいえば23区内にシフトしていくでしょう。
――公団の組織も、建築技術部が技術監理部に変更されましたが、業務内容はどのように変わりましたか
亀田
わが部の重点施策は4点です。一つは設計企画の充実です。需給の動向、地域ニーズに適合した企画を行ってきましたが、多様化しているライフスタイルやワークスタイルに応じ、特に都市構造再編を踏まえて都心再生の核となるような居住環境の整備にふさわしい設計企画力を磨いていく必要があります。
地域のまちづくりに貢献するため、公団の団地だけがきれいになるだけでなく、公団事業が核となり地域のまちづくりに広げることも考えなければなりません。これは建て替え事業にも言えることで、私たちの団地を核にしてどういうことが出来るかという設計企画力も大事になります。
また、既存の賃貸住宅のリニューアル事業も行っており、住宅の基本性能や安全性能の向上を図り、ニーズに的確に対応していくこととしています。このように性能の向上に資するような設計の整備や、都心居住の推進、地域のまちづくりへの貢献、まちづくり型建て替えの推進、リニューアル事業の推進等において、われわれの設計企画を一層充実していく必要があります。
二点目は建設コストの低減と基本性能の確保です。コスト縮減は国の重要政策になっていますが、公団では「ベーシック賃貸住宅」として、基本性能を守りつつコスト低減を図っています。また「ユーメイク住宅」として、間仕切りや設備を最小限にして初期コストの軽減を図り、ライフスタイルの変化に応じて間取りを自ら模様替え出来るようにした設計企画も行っています。
公共工事のコスト縮減のための行動計画を建設省から求められていますが、これに則って全体の工事コスト削減にも努力しているところです。しかし、基本性能の一部として長寿社会対応も必要と考えており、着実に実施しているところです。
三点目は技術開発の推進です。住宅の持つ基本性能や社会変化への対応性を向上させていくために、中期的な展望を持って、建設省の建築研究所など様々な研究機関と連携・交流しながら技術開発に取り組む方針です。
それによって、公的な機関として新技術情報を発信し、防災、防犯、あるいは高齢化社会、循環型社会に対応した技術開発や、都心居住の推進という点では将来のストックとしてスケルトンインフィル住宅など新工法の開発を進めます。また、住宅のストックの再生においても、人が周りに住んでいながら改修を行うことを可能にするために、いろいろな技術開発が必要になりますから、これらについて交流を図りながら、公団の持つ技術情報の発信に取り組んでいきたいと考えています。
さらに、品質管理の適切な実施も重要です。設計仕様、工事計画、工事管理と合わせて入札契約手続きの公平性、透明性、競争性を確保すべく、積算要領の公表も9年4月に、予定価格の事後公表も10年4月に行いました。また、11年12月には、積算内訳の事後公表を行う予定です。
――今後の公団住宅の構造も変わりますか
亀田
従来の量産工法、壁式ラーメン構造の高層住宅など集合住宅の建設では、それなりの役割を果たしてきたと思っています。これまで、主に常時性能と耐震性能を中心にそれぞれの時期に構造設計要領を策定してきました。構造性能の目標は、たわみや振動によって通常の使用に支障を及ばさないことと、大地震時においても崩壊しないことです。事実、阪神淡路大震災では兵庫県内の公団住宅約1,340棟のうち、建て替えたのは3棟しかありませんでした。損傷があったのは56年以前の建物でした。
建物を高さと構造で分類すると、中高層では壁式構造、壁式ラーメン構造、ラーメン構造、20階・60m以上の超高層はラーメン構造が主流になっています。中でも高層住宅の主流になっている壁式ラーメン構造は、ラーメン構造の柱部分を改善し、柱幅と梁幅が同じという壁式構造の特徴を生かしたラーメン構造です。扁平な形状の柱と同じ幅の梁からなっていて、住宅内に梁型などの突起がない壁式構造の利点と広い空間が取れるラーメン構造の利点をともに生かした構造になっています。
今後の都心居住を考えた場合、女性の社会進出や高齢化などの社会状況を受け、子育て中の女性や高齢者も自宅で仕事などができる「在宅ワーク支援型住宅」の企画も検討しています。その場合、打ち合わせなどに建物共用部の一部を利用するなど、付帯的な設えについても考えていく必要があると考えております。さらに子育ての支援システム、生活関連サービス、レンタカー会社との連携なども検討しています。
間取りについては、例えば多摩ニュータウンが好例と言えます。従来の中層住宅の原型から、最近の生活スタイルに合わせた多様なタイプを供給しています。その他先ほど触れた「ユーメイク住宅」は、玄関に入って水回りと1居室がセットされ、その先は広いオープンスペースとなっており、入居者のライフスタイルに合わせて自由自在に室内の間取りをデザイン出来る構造になっています。
他に「女性のときめきをカタチにした、憧れのステージ」とのキャッチフレーズで理念を掲げたものもあります。横浜の能見台にあるもので、南側にキッチンとつながったガーデンシンク付きのサービスバルコニーを配置、植木に水を注したり野菜の下洗い、子供さんが汚した靴の洗浄など多目的に利用できるよう配慮しました。生活納戸、多目的スペースなどは、女性の意見を取り入れて設計されています。
――高齢者や身障者のためには、どんな工夫がされていますか
亀田
高齢者向けの住宅について、新規建設においては、平成7年度までは高齢者向けの住宅と高齢化対応仕様という二本立ての考え方を取っていましたが、8年度からは一本化してすべての住宅を長寿社会対応型としました。和室と居間との段差を解消したり、玄関ドア等の有効幅は80p以上、キッチンの水栓はお年寄りが使いやすいシングルレバー、浴室に手すりを設置したほか、玄関、トイレ、廊下などには、いずれ必要になった時に備えて手すりが容易に取り付けられる下地にしてあります。
身障者については、固有の障害等に対し、予め対応しておくことは、難しいのですが、長寿対応の考え方と共通し、介助車椅子を使用できる廊下寸法の確保等を行っています。また、ソフト面では4級以上の身障者は募集時の倍率を10倍優遇しています。
――コスト対策も含め、新技術の開発状況は
亀田
公団として開発した技術に中層フラットビーム工法があります。見栄えは一見壁式ラーメン構造のように見えますが、梁の断面を偏平にし、床のスラブの厚さと同程度とすることにより、開口部の高さが天井面近くまで確保できます。
もう一つはスケルトンインフィル住宅があります。インフィルとスケルトンに分離し、スケルトンは躯体としては100年以上長持ちするコンクリートを使いながら造りあげますが、一方、インフィルは、それぞれのライフステージに合わせて将来変更できるよう設けられています。現在、40年代の団地をリニューアルで住戸改善していますが、水回りの配管が住戸内に縦に通っており、プランを計画する上で大変な制約を受けます。そこで排水設備を工夫して、立て管は共用部に設置、専用部は床下に一定の勾配で横引きの配管にする排水ヘッダー方式によってメンテナンスや更新性の向上が図れます。八王子にモデル住宅を建てて実験しています。これらは、特許も取得できるレベルのものと、公団としては自負しています。
――省エネが時代の要請となってきていますが、どんな工夫をしていますか
亀田
省エネは環境行政の一環として取り組んでいます。例えば、ソーラーシステムについては、パッシブソーラーシステム、アクティブソーラーシステム共に一部の住宅において試行しています。なお、今後においても費用対効果等を考えながら、取り組んでいく必要があります。
――最近、VE(ヴァリュー・エンジニアリング)が関心を持たれていますが、導入は考えていますか
亀田
公団の方針としては設計熟度を高め、費用対効果の向上を図るため、インハウスの設計veを実施し、その成果を他の設計にも反映させる考えです。また施工veについては、その有効性と課題について検討することにしています。最近も大阪でスプリンクラー配管の材質の樹脂化について、消防庁長官表彰をいただきました。
今後は基本プランと性能を表示して、それに適合する施工能力を持っている建設会社に提案してもらうという手法が増えていくことになるでしょう。
大川端・リバーシティ21北ブロックN棟
臨海副都心台場地区I街区1号棟
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