建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1999年1月号〉

interview

道民は北海道開発の歴史と北海道経済史を認識すべき

技術の商品化で新しいビジネスチャンスを

北海道議会建設常任委員長 高橋文明氏

橋文明 たかはし・ふみあき
昭和27年9月14日生まれ、北海道工業大学卒。
オホーツク青年同志会長、網走管内スポーツ少年団振興会事務局長、自民党道連広報副委員長、同青年議員連盟事務局長、道議会自民党議員会政策審議副委員長、同自民党・道民会議議員会副会長、道議会予算特別分科・交通安全対策特別・保健環境・過疎地域振興対策特別各副委員長
21世紀は北海道の開発を担ってきた北海道開発庁が、国土交通省に再編される一方、地方分権も進展を見せることから、地方は否応なく自主自律の道を進まざるを得なくなる。特に国費において、特例的な重点配分という恩恵を受けてきた北海道は、多大な影響を受けることが予想されるだけに、地方自治体と地方議会の役割はますます重くなってくる。そこで、北海道議会建設委員会の高橋文明委員長(網走・3期)に、北海道の今後と建設産業の将来について語ってもらった。
――21世紀には北海道開発庁が国土交通省に統合されます。したがって、従来の開発予算シェアを確保していくには、自治体や地元政界の力量に依存せざるを得なくなることが予想されます。そこで、北海道議会建設委員長としては、官民含めて北海道はどう行動すべきと考えますか
このような問題を取り上げるとき、我々の間でよく話題になるのは、“道民が現況をどの程度、理解しているのか”ということです。政府が目指していることと道民の意識の間には、相当の格差があるということを前提にしなければなりません。
北海道は、北海道開発予算として特別枠を獲得しており、この130年間で膨大な額に上っていますから、道民は自分たちの産業・経済がどのように成り立っているのかをきちんと検証することが必要なのです。
北海道は第一次産業や公共事業、観光などで様々なバックアップを受けてきたのですから、現況の正しい把握と同時に、そろそろ自主・自律が必要な時期を迎えているのです。ところが、国は「自主・自律を」と叫んでいるのですが、北海道のほとんどの人たちは自分達の産業は、それなりに成り立っていると、現況に安住しています。
しかし、これまで国費配分において適用されてきた北海道特例という意味合いが分かっているなら、「現況を何とかしなければならない」、「どのように改善しなければならないのか」という議論に移ってしかるべきです。
――北海道開発庁の統廃合が論議されていた当時の、道内のムードには気になるものがありました
開発庁統廃合が議論されているときに、地方では「地域対策を公共事業で」と主張していながら、地域対策に関わる人たちがどれほど議論したかといえば、何もしていなかったのです。これは大変、お粗末なことで、それがこの結果を生んでしまったのです。
――確かに、市町村を対象にした当時のアンケート結果を見ると、「開発庁はいらない」という回答がいくつか見られました。そう回答した町村は、それだけの自信があるのかも知れませんが、しかし実態は違うように思えます
市町村でさえも甘えの構造で、いまなお北海道が“未来永劫”に成り立つような錯覚をしています。
地域の人たちは分権を良い方向に誘導しなければならない役割があり、そして地方議会は代議院制なのだから、世論に聞くというのが理想です。そのように成熟した社会のなかで判断することが大前提ですが、地方分権を行うにしても、経済・産業の構造改革をどうするか。また、北海道特例そのものが、道民に理解されているか。また、北海道開発の財源は、どうなっているか。北海道開発庁の果たしてきた役割は、何だったのか。それらに関する情報が途絶えています。
――北海道の年間予算は約3兆円ですが、税収はわずか5,000〜6,000億円で、ほとんどは国費と起債ですから、行政の努力の恩恵によって生きてきたといえます。しかし、道民にはその自覚が低いように感じられます
北海道は、みんなが理想主義に走り過ぎてしまい、自分たちの経済の実態をきちんと議論していないことに全ては発しています。
ですから、いま「新たに自分たちだけでやりなさい」といわれたら結局、右往左往してしまうのです。
――道議会としては、道民にどのように対応しなければならないと考えますか
いまの道民に対して、「次の時代には、国の対応はこう変わります」、「他府県と比較すると、これほどの差が生じます」、したがって、自主・自律を果たしていくのであれば、「こういうハードルをみんなで越えていかなければなりません」と、分かりやすく提示することだと思います。そうして、早期に自立の道筋を決め、産業・経済構造改革を、改革とのビジョンをとりまとめ、道民の合意をとりつけ、実施していくことが大事だと思います。
そして、改革の移行期間として、10年〜15年をかけて、北海道の自立化を図る。その間は、現状の北海道特例をしっかりと守る。これらの議論が、それぞれの地方議会で行われなければと考えています。
――一般紙や大衆紙は、政府の政策、特に景気対策において常に比重の置かれている公共事業には批判的です。自治体は乏しい財源の不足を必死に補って実施しているのに、評価されていません。
橋 
私の基本的な考え方としては、公共事業は将来、必ず大きな成果を生んでいくと思いますが、そのスパンを10年から15年として、その間に北海道流のやり方を模索していくことが必要です。
自民党は、大衆紙から、いかに批判されようとも、北海道が、それぞれの地域や産業の振興のために、予算は獲得してきます。
しかし、先に述べた意識改革をとにかく行い、これまでのように「将来、何にも役に立たない」と批判されないように、その道筋を付けさえすれば、みな理解してくれるはずです。
――北海道は、明治30年の勅令で土木部という専門のセクションが設立されてから100年目を迎えています。その技術力を支えてきた北海道大学の工学部からは、北海道庁だけでなく、中央省庁や首都圏の自治体にも人材を排出し、幹部にまで出世しているケースも見られます
北海道で開発された、北方型住宅建築の技術は、本州でも評価され、採用されています。これから諸外国と交流していく上で、特に北方圏交流においてはそうした技術指導や、北海道独特のノウハウを活用することも可能です。
その意味でも、公共事業をもっと大衆化させる方向付けも必要でしょう。北海道ばかりでやるわけではなく、もう少しグローバルに、例えばロシア対策においても土木技術の分野において、国が援助し、その窓口としての役割を北海道が果たしても良いのです。
私の地元である北海道斜里町でのことですが、鮭の河川の遡上に関するノウハウを持った人々が、自力でサハリンやカムチャッカの孵化場などに技術指導に行ったという事例があります。圏外の会社にそうした技術を売るというビジネスも可能です。
大規模ダムや、寒冷地道路の施工法ばかりでなく、民間企業が持っている様々な分野のノウハウを大事にしながら、ビジネスチャンスに結びつけていくという方向性も考えられます。
――専門的知識や技術自体を商品とするやり方ですね
ただ、問題なのは、本州では研究開発費がコストに含まれており、大手企業は幅広く事業を展開しながら、そこから研究開発費を捻出し、再投資しています。
しかし北海道では、地崎工業など地場の有力企業が窮地に立たされている現状があり、民間レベルでは新しいことにチャレンジするための研究開発費の確保が非常に難しい。
しかし、建設業もいままでのように、官が造ったシミュレーションについていくというのではなく、業界団体があるわけですから、官と民とが対等に議論できるようなシステムを作るよう努めるべきでしょう。残念ながら、いまはまだ仕事をもらっているという発想に止まっています。
――単なる請負産業の域をなかなか出られないのですね
しかし、民間でも良い仕事をしているところもあります。そこから技術や工法などを吸い上げるような仕組みを考えるのが良いと思います。
――それらも含めて、これからの業界の構造改善はどう進めるべきだと考えますか
一つは発注方法の改善がポイントになります。建設省では競争入札などを導入していますが、北海道の第一次産業と同様、国際化の影響で着実に変わっていくことは仕方のないことです。
北海道は、国策の流れのなかで、自らがランク付けをし、守るものを守りながらやっていますが、その手法についてはかなりの危機感が出てきました。
そこで、“建設という産業をどうするのか”、“景気対策をどうしていくのか”を、北海道庁がもう少し業界と議論を交わしていかなければ、構造改善はできません。
そのためにも、これから様々な発注方法を模索していく必要があるでしょう。
道の建設部が、北海道の建設業のあるべき姿を示すべく、北海道建設業振興アクションプログラムを策定しました。平成10年度から19年度迄の、10年間の計画であります。まだまだ議論の余地はありますが、当面私共は、この計画に基づいて、官民一体となって、努力をしたいと考えております。

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