建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2000年4月号〉

interview

試練に直面する北海道

北海道知事 堀 達也 氏

堀 達也 ほり・たつや
昭和 10年 11月 22日生まれ、北海道大学農学部卒
33年 10月 北海道網走支庁上渚滑林業指導事務所
34年 11月 北海道網走支庁上渚滑林業指導事務所長
35年 9月 北海道林務部林業指導課
37年 5月 北海道林務部造林課
42年 7月 旭川林務署
44年 8月 美深林務署音威子府支署業務第三係長
47年 5月 北海道林務部道有林第1課
49年 5月 北海道大阪事務所主査
52年 9月 北海道林務部道有林第1課販売係長
54年 5月 北海道林務部道有林管理室経営管理課販売係長
54年 8月 北海道林務部林政課
55年 4月 北海道林務部道有林管理室業務課長補佐
56年 4月 北海道林務部林産課長補佐
58年 5月 北海道林務部林産課長
59年 4月 北海道林務部道有林管理室経営管理課長
60年 4月 北海道総務部知事室秘書課長
62年 5月 北海道生活環境部次長
63年 4月 北海道土木部次長
平成 元 年 4月 北海道総務部知事室長
3年 5月 北海道公営企業管理者
5年 6月 北海道副知事(〜平成6年11月)
7年 4月 現職、現在2期目
公共事業の発注方法や職員の再就職問題をめぐって、またも北海道庁が試練に立たされている。北海道拓殖銀行倒産後の混乱がようやく収束を見始めた矢先のことで、しかも21世紀を迎える来年には、北海道開発予算獲得の窓口となってきた北海道開発庁の格下げが控えている。北海道庁も北海道民も、まさに「試される北海道」のキャッチフレーズ通り、試練に次ぐ試練を課されている状況だ。だが、視点を変えれば、これは世界を席巻するグローバル・スタンダードに適応できる体制への過渡期として不可避の試練とも言えよう。北海道は官民ともにこれを乗り切ることによって、むしろ同庁が掲げた「自主・自律」の理念に大きく近づくことが期待できる。したがってこの険しい情勢は、むしろ自律力を高める絶好機と考えることもできよう。様々なアクシデントに耐えながらも、ひたすら自主・自律への道を着実に先導する堀達也北海道知事に、北海道の現況と21世紀への戦略、そしてそれを導く道職員のあり方などを語ってもらった。
――農政部談合疑惑問題に関する一連の新聞報道を、どう受け止めますか
公正取引委員会という法的権限を持った機関の調査を受け、道民の皆さんの行政機関に対する信頼を揺るがしたことについて遺憾に思っています。
道としては、この調査に誠実に対応しなければならない立場にありますので、公正取引委員会の調査の推移を見極めながら、実態把握に努め、農業農村整備事業の一層の適切な執行を図っていきたいと考えています。
これについては、昨年11月1日に「入札手続等調査委員会」を設置し、一昨年6月に策定した「入札手続等に関する改善策」の浸透状況や入札手続などの業務の実態把握を行うことにし、浸透状況などについては昨年12月24日に報告書を取りまとめ、業務の実態把握については、引き続き調査を行っているところです。
また、この12月24日に行われた「入札手続等調査委員会」の調査結果を踏まえ、入札制度と入札執行の手続のあり方を検討し改善を図ることを目的とした「入札制度改善委員会」を同日に設置しました。
私としては、一層の適切な入札制度や入札執行に関する手続きを確立するため、この「入札制度改善委員会」における「入札手続等調査委員会」の報告を踏まえて諸課題を把握するとともに、今後の入札制度のあり方を検討した上で、できるだけ早期に必要な改善措置を講じていきたいと考えています。
いずれにしても、今後とも道民の皆様から信頼される公正で透明な道政の推進に向けて、全力を傾けていきたいと思います。
――この問題に関連して、道職員の再就職問題も提起されましたね
職員の再就職については、公正取引委員会の調査以来、道民の皆様から様々なご疑問やご批判を受け、道議会においても種々ご議論をいただいているところです。
道としては、国の取扱いや他府県の状況、さらには議会論議などを踏まえて検討を行い、昨年末にこれまでの再就職に関する取り扱いの見直しを行いました。
その結果、従来の内部規約であった「北海道職員の再就職に関する取扱要領」と「民間企業に再就職する者の取扱い」を廃止し、新たに「北海道職員の再就職に関する取扱要綱」を制定したところです。
――どんな内容となりましたか
主な内容として、民間企業への再就職については厳しい制限を設けました。本庁次長級以上の職員は、退職前5年間に在職していた所属と密接な関係にある企業への再就職を、退職後2年間は自粛させることとし、本庁課長級以下の職員は、退職前の5年間に在職していた所属と密接な関係にある企業の役員や営業部長、支店長など直接営業に関わる地位への再就職を、退職後2年間は自粛させることにしました。
一方、道への営業活動の制限については、これまでの自粛期間を一年間延長し、道退職後2年間は道に対する営業活動を自粛させることとしました。
また、職員が再就職する場合においても、幹部職員が給与水準など雇用条件の決定に関わったり、当事者間の話し合いに立ち会うこと、合意文書に署名、押印するなどの関与は誤解を招くので、今後は一切しないことにしました。
見直しの主な点は以上のとおりですが、とりわけ職員の再就職によって、道民の皆様からご批判を受けることのないよう、新しい要綱の厳格な運用に努めていかなければならないと考えています。
――景気回復に向けて全力を挙げている矢先のことだけに、北海道経済の失速が心配されますが、影響をどう見ていますか
現状では、公共投資の追加や住宅減税、金融対策など各種の政策効果によって一部に持ち直しの動きも見られますが、そもそも民間需要による自律的な回復までには至っていません。雇用情勢を含め、依然として厳しい状態が続いており、個人消費や民間の設備投資など、経済の動向を慎重に見極めていく必要があるものと考えています。
道としては、本道経済を確かな回復軌道に乗せるため、本年も引き続き、景気・経済対策を着実に進めていきます。厳しい財政状況にはありますが、景気の下支えを図るための「公共投資の確保」や「金融支援」、雇用の維持・確保や創出に向けた「雇用の安定」などの対策を講ずるなど、本道経済の情勢や国の動きなどを十分に見極めながら、本道の景気回復に向け、最善を尽くしていきたいと思います。
――先述の問題にも関わることですが、地場企業の育成とメガ=コンペティションは二律背反の問題です。公正取引を重視し、一般競争入札の比重を高めると、競争力の弱い地場企業は苦境に立つでしょう。この点についてはどう考えますか
近年、経済はもとより社会・文化などのあらゆる分野において、グローバル化、少子・高齢化、高度情報化の進展、環境重視型社会への移行など時代の潮流が急激に変化しています。これと同時に、規制緩和の行財政、経済構造、金融システムなどの改革が進められ、特に本道の建設業界は金融環境の急激な変動も加わり、産業構造自体が今までとは質的に異なる大きな曲がり角に来ています。
また、景気回復の遅れによる民間建設投資の伸び悩みや、国・地方自治体の厳しい財政状況などによる公共投資の先行きへの懸念、さらには、入札・契約制度の改革や市場の国際化、公共工事のコスト削減などにより、今後の建設市場は一層競争的なものになっていくものと予想されます。
本道の建設業がそうした厳しい経営環境を乗り越え、今後とも健全に発展していくためには、これまで以上に産業構造の効率化・高度化などに向けた構造改善の取り組みを進めていくとともに、新しい時代や社会情勢の変化に的確に対応し、産業全体として方向転換を図っていくことが重要だと考えています。
そこで、平成10年11月に、今後の建設業の進むべき方向とその具体化への取組方策を示した「北海道建設業振興アクションプログラム」を策定し、啓発・推進を図るための取り組みを進めているところです。
このプログラムには、社会に開かれた市場システムの形成、経営に優れた企業の創造、時代の要請に応える技術開発の促進、合理的な建設生産システムの確立、働く人々の豊かな生活の実現、環境との共生と企業市民としての産業活動というの6つのテーマを推進目標として掲げています。そして、企業の自助努力を基本としつつ、建設業界と行政が連携してそれぞれの役割を果たしながら、取り組むべき事項を明確にしています。
ただし、道としてはこれに基づきながらも、公共事業の効率的な執行や地元中小建設業者の受注機会の確保には、今後とも努める方針です。その上で、この「北海道建設業振興アクションプログラム」を基本とした建設業の振興施策を進めていきたいと考えていますので、建設業界側も主体的に取り組むことを期待しています。
――一方、建設業に限らず、経済のグローバル化の進展や金融ビッグバンなどにより市場原理主義に基づく競争社会の到来を迎えていますが、本道産業は現在どのような状況にあるのでしょうか
そうですね。農林水産業では、農水産物や加工食品の輸入増加と国際市場における価格低迷、木材の代替材や輸入材との競合の強まりなどが見られるとともに、食料需給については将来の世界的な逼迫が懸念されています。
また、2次、3次産業については、自動車関連産業の立地や情報産業の集積がみられるものの、高度な技術に支えられた産業の集積がまだ十分とは言えませんし、中小企業における輸入製品などとの競合や流通面での低価格化の進行、あるいは観光地の国内外との競争激化など、道内産業や雇用への影響が懸念されています。
――そのような中で本道の産業が勝ち残るには何が必要でしょうか
日本の経済社会は、バブル崩壊後の長期不況による閉塞から脱け出せず、財政や金融システムなど、さまざまな分野で構造改革が大きな課題となっています。北海道も、国や地方の財政が厳しさを増す中で、公共事業に大きく依存したこれまでの経済構造は見直しを迫られており、企業の設備投資や研究開発投資を活発化させて、民間が主導する自立型経済構造に転換していかなければなりません。
自立のためには、企業の市場競争力を高めていくことが不可欠です。道内の企業が、全国あるいは国際的にも視野を拡げて市場に向き合い、競争の中で自らを鍛えながら、成長力を培っていくことが必要であり、そのためには3つの視点を重視すべきだと考えています。
第一は、北海道の優位性を発揮することです。北海道は、すでに国際的観光地としての地位を固めつつありますし、冷涼な気候がもたらす安全で高品質の食材、雪を冷房や食料保存に利用する利雪技術、高断熱・高気密の住宅技術など、北海道独自の技術分野を伸ばし、それを産業展開につなげていくことです。
第二は、知識産業の集積形成です。北海道には、若年人口の厚みと充実した高等教育機関のベースの上に、自然に囲まれた快適な生活環境、適度な都市機能、四季を通じた豊富なレジャー機会など、知識産業に適した立地環境があり、これまでも情報分野などで企業集積が形成されてきました。今後、情報通信技術が飛躍的に進歩し、ネットワーク社会が進展していく中、こうした北海道の潜在力を生かして、次の時代をリードする産業群を育成していくことが必要です。
第三は、産業クラスター活動の展開です。産業クラスターとは、地域の優位性を生かしながら、関連するさまざまな産業群がぶどうの房(クラスター)のように集積して、活発な産業活動を展開するという地域産業振興のモデルです。すでに道内各地域に17の研究会が設立されており、道内企業や大学などが(財)北海道地域技術振興センターと連携して進めている10のモデル事業の中から、実際に商品化されたものが出てきています。
道としては、こうした地域の自発的な産業振興の活動や、先進的な研究開発、また産業の新たな展開をめざす革新的な試みなど、北海道の産業も未来を切り拓く取り組みを積極的に支援していきたいと考えています。
――特に北海道の基幹産業である一次産業についてはどのような取組が必要でしょうか
農林水産業については、健康・安全志向など消費者ニーズの多様化に対応し、これまで以上に安全で良質な食料や木材の安定供給が求められています。また、国民の自然環境への関心の高まりにこたえ、森林や農地の維持、管理など国土や環境の保全などについて、その役割を十分発揮していくことが期待されています。
このため、生活基盤の整備や技術力の向上、すぐれた担い手の育成・確保などの取組を進めるとともに、他産業との結びつきも強めながら、地域の特性や生産者の創意工夫を生かして、持続的に発展し、活力あふれる地域社会を支える産業としてその体質を強化していきたいと考えています。
――ところで、経済のグローバル化によって、地域の文化や伝統などの地域性が失われるか、あるいはかなり薄まってしまうとの批判も聞かれます。道としては、グローバル化と地域文化・伝統などとのバランスについてどう考えますか
確かにあらゆる分野においてボーダレス化、グローバル化が進展しつつあり、道としては、北海道文化財団の実施する「文化発信交流・海外研修事業」による地域文化の海外への発信や活動家らの招へいを行うなど、国際化を視野に入れた文化振興施策を展開しているところです。
世界の様々な文化との触れ合いや交流を深めることにより、北海道の自然、歴史、生活様式などに根差した北国らしい地域文化のより一層の確立を目指すなど、文化の面における「北海道スタンダード」の創造に取り組んでいきたいと思います。
――21世紀の始まりは、北海道の開発を担ってきた北海道開発庁の幕引きの年でもあります。同庁の国土交通省への再編・統合による北海道への影響をどう見ていますか
新設の国土交通省においても、北海道の開発をその主要な行政機能の一つと位置付け、これまでの北海道開発庁の任務、行政機能を引き継ぐこととしており、北海道開発予算についても、従前どおり国土交通省に一括計上することが認められていることから、再編・統合により即座に開発体制が大きく後退するものとは考えていません。
とはいえ、これを長期的に見た場合、これまで単独省庁として総合的な開発行政を担ってきた北海道開発庁が再編・統合されることにより、国全体の課題として北海道開発を考えていくという姿勢が徐々に失われていくのではないか。そして、そのことにより、北海道開発の推進に影響が出てくるのではないかという懸念はあります。
戦後半世紀が経過し、政治・経済のシステムが大きく変革する中で、これまでどおり北海道を特別視するのはどうかという意見もあることは十分に承知しています。しかし、本道が歴史的・地理的にも他府県とは事情を異にすることを考えれば、本道の開発行政の責を担うものとして、国全体の中で北海道の位置付けが相対的に低下することがないよう、国に対してあらゆる機会を通じ、強く働きかけていかなければならないものと考えています。
――そうした情勢を踏まえて、北海道庁は今後、何を目指しどんな役割を果たしていきますか
時代の潮流が大きく変化する中で、日本全体が経済社会システムの改革に向けて動き出し、これまでの北海道の発展を支えてきた枠組みが変化してきている今、これまでの過度な中央依存・官依存からの脱却は、北海道の今後のあり方を考えるときに避けては通れない大きな課題です。
道としては、この歴史的な転換期を、自主・自律の地域社会へと変革していくチャンスととらえ、昨年から、構造改革に取り組んでいます。
構造改革の取り組みは、これから始まる100年の北海道の発展を支える仕組みや基盤を築いていくものであり、北海道の将来をかけた大きなチャレンジだと考えています。現在、改革に向けた「意識の醸成」「地域社会」「経済構造」「行財政システム」「発展基盤」の5つの分野で具体的な進め方を検討していますが、今年はこうした取組の正念場と考えており、自主・自律意識の醸成や経済構造改革の展開方策の策定、pfiのモデル事業の推進など、道民の皆さんの参加と共感をいただきながら、着実に取り組んでいきたいと考えています。
また、今年は、20世紀最後の年であり、そして新しい千年紀の始まりとなる大きな節目の年でもあります。こうした大きな区切りの年を、道民の皆さんとともに北海道の将来を真剣に考えていく年にしたいと考え、北海道の新たな発展の基礎となるプロジェクトや道民参加型のイベントを「北海道ミレニアム事業」と位置付けて、「北の国づくり」に向けた取組を加速したいと考えています。
――具体的には「北海道ミレニアム事業」の中でどのような取組を進めるのでしょう
まずは、21世紀初頭に、北海道が発展する基盤づくりを進める必要があります。そのためには、ヒト、モノ、情報のグローバルな交流の拡大、早急な対応が求められる地球環境問題、そして、これまで経験したことのない少子高齢化の進行といった時代の大きな潮流をしっかりと見極めることが大切です。
こうした観点から、「情報通信」「技術開発」「自然環境」「人材育成」という4つのテーマで「ミレニアム・プロジェクト」を展開し、新世紀・北海道の豊かな暮らしと力強い産業づくりにつなげようと考えています。
また、「21世紀記念事業」として、新たなライフスタイルの提言や社会システムの構築など、21世紀のあり方につながる、さまざまな道民参加型のイベントを実施したり、北海道スタンダードを考えるフォーラムや道民活動事業などを展開していきたいと思います。
こうしたことを通じて、21世紀の北海道をしっかりと見据え、それぞれの家庭、学校、職場、そして地域を通じて、夢あふれる北の国、新世紀・北海道の豊かな未来像を、道民の皆さんと一緒に描いていきたいと考えています。
――その実現に向けて、先導役となる道職員にはどんな資質・能力を求めますか
何よりもまず道民の皆さんの信頼回復に努める必要があると考えています。道政を円滑に推進するためには、道民の皆さんの信頼が不可欠であり、私としては、道政に対する信頼回復のため、道政改革の推進や職員の意識改革に積極的に取り組んできたところですが、残念なことに、団体検査の際の会食問題や公正取引委員会の立入調査など、道民の皆さんの信頼を損ねる事件が発生しました。改めて、職員の綱紀保持の徹底や意識改革を推進していかなければならないものと考えています。
私としては、道職員のあるべき姿としては、常に道職員としての誇りを高く持ち、絶えず地域重視、道民重視の姿勢を持つこと。地方分権時代にふさわしい自主・自律意識を高めること。社会経済情勢の変化に敏感に対応する柔軟な発想を持つこと。ボランティアや地域活動などに積極的に参加する社会性を持つことなどが必要だと考えています。
そのために、職員にはもっともっと自己投資をして欲しいものと思っています。

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